やさしい食卓二。【SS】 (ページ22)

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五十二。清水焼【翔】ページ22

『それじゃ櫻井くん、本社の上層部にも宜しく頼むよ』

『いやー、若手でこんなに優秀な社員がいるとは。

流石の御社ですな』

帰国後初の出張先は京都だった。

と言っても1日目は大阪の支店に出向いたので、京都へ滞在したのは2日目と3日目の今日。

当初の予定よりもスムーズに商談が進み、ホッと胸を撫で下ろす。

最終日の今日は、午前中の内にシステムメンテナンスを終える事が出来たので

“折角ですから最後の昼食は祇園で” と言って下さった先方の若手社員に連れられて、昼の祇園にやって来た。

昨晩もこの辺りの料亭で食事会があったが、やはり昼と夜とでは街の顔がまた違って見える。

『ここの京赤地鶏の親子丼は絶品なんですよ』

そう言った彼が足を踏み入れたのは、これまた創業五百年を超えるという老舗料亭だった。

確かに美味い。

だけど…

“それじゃ、櫻井さんのお好きな貝類、旬のものを仕入れておきますね”

ダメだ

最近、こういう和食を食べてるとすぐに彼女の顔が浮かんで来る。

.

「あの…つかぬ事をお伺いしますが。この辺りで、良い呉服店をご存知ないでしょうか？」

俺がそう訊くと、先方社員の彼は快く応えてくれる。

『あ、それならお薦めがありますよ。僕の妻がよく通っている所なんですが』

.

.

彼に教わった呉服店は、祇園の一等地に構える天正12年に創業の一流の店だった。

『いらっしゃいませ』

店に入ると、上品な女将が笑顔で出迎えてくれる。

「あの、女性の和装小物で…この時期お薦めのものは有りますか？」

俺がそう問い掛けると

『それでしたら』

そう言って、目の前に様々な品物を並べてくれた。

『ちょっとしたお土産でしたら、この帯留なんて良いかもしれませんね』

『夏の風物詩を感じられる手描きの模様と、京ならではの清水焼が粋かと』

そう女将が差し出したのは、

細かい模様が繊細に描かれた清水焼の帯留だった。

柄や形が何種類かあったけど、どれも素晴らしいもので。

悩みに悩んで

夏らしく涼しげな水色を基調にした丸いものと、白を基調とした百合の花を思わせる花型のものを二つ包んでもらう事にした。

『お着物、お好きな方なんですか？』

「あ、はい。毎日のように着る方なので」

俺がそう言うと、女将はニッコリ笑って

『きっとお喜びになりますよ。お渡しが楽しみですね』

と言った。