やさしい食卓二。【SS】 (ページ16)

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四十六。愛おしい【翔】ページ16

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『私、夜景って、そんなに関心が無くて』

『ただのネオンの集まりじゃないかって、どうしてそんなに人は夜景に心を奪われるんだろうって、そう思ってたんです』

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目の前に広がる東京の夜景を見つめながら、彼女は言葉を続けた。

『17の時に病院で祖母の最期を看取って

その場で途方に暮れた私に看護師さんが、

“病院の屋上の景色が綺麗だから見ておいで” って

そう私に言って』

少しずつ言葉を紡ぐように、彼女が心の内を明かしていく。

『まだ少し風が冷たい5月の深夜、誰も居ない屋上に出てみたら』

『広い夜空に、星も綺麗に見る事が出来て』

『そして看護師さんの言う通り、目の前には見事な夜景が一望出来た』

そう言う彼女は尚も、目の前の景色を見つめ続ける

『まるで夜空に輝く星たちと一体化しているような、そんな煌びやかな景色が視界一杯に広がって』

『あんなに関心が無かったはずなのに

何だかもう、どうしようもなく、綺麗に思えてしまって』

『涙が、止まらなかった』

その言葉を合図に、彼女のキレイな頰に涙が一筋流れる

『別に、両親のいない、家族のいない自分の境遇を恨んでいるわけでも、卑屈になっているわけでも無くて』

『ただ、大人になった今でも時々、やり場の無い寂しさに耐え切れなくなる事があって』

“東京って、寂しい人で溢れかえっていると思うんです”

『特に、今日みたいな場は…自分は一人きりだと思い知らされるようで、すごく堪えてしまって』

彼女の話を聞いている内に

次々と彼女のいつかの言葉が蘇る

“お祖母さん、今はお店やってないの？”

“10年前に亡くなって、その時に店は閉めたんです”

“私にとって、祖母の料理がそうだったように”

“私の料理が誰かの孤独を救えたら”

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『高校時代、涼子のご両親にもよくお世話になったので…

今日は、色んな思いが溢れてしまって、あんな情けない姿を見せてしまいました』

いったいこれまで

彼女はどれほどの孤独と闘ってきたのだろうか？

『まさか、櫻井さんに見抜かれていたなんて』

『私もまだまだだなぁ』

店に立つ彼女は

あれだけ逞しく、強く見えるのに

今この瞬間の彼女は

どうしようもなく頼り無く、愛おしくて

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そう思った時には、彼女の頬に手を伸ばし

今も尚、彼女の頬を濡らし続ける涙を、この手で拭っていたんだ______