第二十三章『愛別離苦』【1】 ページ2
「おはようございま―――――・・・?」
先に扉を開いた真昼が挨拶をしようとした処―――――バタバタバタと何やら慌てている様子の盾一郎の姿が目に飛び込んできて。
「おはようございます、弓景さん。あの・・・・・・盾一郎さん、何かあったんですか?」
一方で、落ち着いた様子のまま自分の席で、書類を見ながらコーヒーを飲んでいた弓景の傍に黒猫を腕に抱いた瑠璃が近づいて行って尋ねかけると。
「ああ、今日の午前にやる会議が外部の人間も来るやつでな」
はよ、と挨拶を返してきてくれた弓景がそう告げてきて。
「昨日、一言言ってくれよ弓!」
「俺はテメェのカーチャンじゃねぇ」
ロッカーからスーツを見つけ出した盾一郎が口にした文句に対し、シレっとした態度で弓景はそう言い返すと。
「瑪瑙、お前は此処に座ってろ」と盾一郎が着替える様子が目に入らないよう、ちょうど背を向ける側に在った自分が座っていた席に瑠璃を座らせた処で。弓景のその行動を確認した盾一郎が手早く着替えを終えると「おい弓、ネクタイ貸してくれよ」と呼びかけてきて。
自分のロッカーからネクタイを取り出した弓景が盾一郎の前に立つと。
ふ―――――間に合いそうだと盾一郎は安堵の息を漏らして。
「よしよし。今日も男前だな」
右手に手鏡を持ちながら左手で乱れた髪を整えつつ、そんな台詞を口にすると。
「その魔法の鏡どこで売ってんだ?」
弓景が慣れた様子で盾一郎の首に掛けたネクタイを締めながら、呆れたような口調で聞き返してきて。
そんな弓景に対し「真実しか映らねぇよ」と盾一郎は眉を顰めながら言い返していて。
二人のやり取りを笑っていいものなのか・・・と瑠璃の向かい側の席に着いて当惑の面持ちで眺めていた真昼がチラリとホワイトボードに書かれていた今日の予定を確認した後に。
「あ、あの、吊戯さんは・・・?」
オフィス内に姿が見当たらないままの吊戯の所在を訊こうとした刹那―――――
ガコン!! と大きな音を響かせながら天井の一部が抜け落ちるのと同時に、人の脚がそこから飛び出してきて。
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作者名:朱臣繭子 | 作成日時:2021年11月13日 19時