肆拾‐玖 ページ11
そこで俺は小さく息を吐いた。
もう一度夜空を見上げる。満月が馬鹿みたいに綺麗だった。
「 “人もをし人も恨めし味気なく 世を思ふゆゑに物思ふ身は” 」
過去の誰かが詠んだ和歌。古典の教師だったから、こういう歌に触れ合う機会も多かった。
別に意味が通じなくても良かった。
でも、アイツはふっと笑って軽く首を振った。
「 “ながらへばまたこのごろや忍ばれん 憂しと見し世ぞ今は恋しき” 」
「…！」
「僕は自分が不幸だと思ったことはありませんよ。自分にこの術式があることも、こんな眼を持ってることも。僕が次男だったことも。それでも、僕は幸せだった。誰がなんと言おうと」
“幸せだった”
その言葉になんだか肩の力が抜ける。目の前にいる“弟”の姿を真っ直ぐと見た。俺と同じ色をした瞳がこちらをじっと見ている。
「『アンタが兄でいてくれたら良かったのに』」
「…」
「あの時の僕が言おうとした言葉です。そんな弱気なことを言おうとしてた」
あの時、当時高専二年だったアイツは確か……
ふと思い出されたのは1度だけ会って話したことのある女の子のこと。黒髪に白いヘアバンドをつけてたあの子。
もうこの世にはいない小さい命。
「僕は他の人から頼ってもらえる人間であることを自覚してる。それだけの強さがあることを知ってる。………でも、それじゃあ、
任務に失敗して、護衛対象を死なせてしまったこと。
高校生だった女の子の命は呆気なく散ったこと。
自分の後輩が亡くなったこと。
親友と道がわかれてしまったこと。
親友を、自分の手で殺したこと。
「……辛かったよな。苦しかったよな」
これは同情なのかもしれない。でも、それでいいと思った。
「それでも、お前は幸せだって言いきれるんだな」
「…ええ」
「よく頑張ったな……悟」
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チョコドーナツ(プロフ) - う……ようやく向き合えたんですね……(´；ω；｀)二人がどう接し合うのかすごく気になります！楽しみにしてます！ (12月27日 22時) (
レス) @page12 id: 915577a7d1 (このIDを非表示/違反報告)
翡翠(プロフ) - めちゃくちゃ感動しました...泣きました…最高です (8月10日 1時) (レス) @page12 id: 4dcc3dce6a (このIDを非表示/違反報告)
花帆 - 面白かったです…!双子の兄弟が向き合えて良かったです…!!続き気になります!! (2022年9月28日 0時) (レス) @page12 id: 8832d32b96 (このIDを非表示/違反報告)
凉月 - とても面白かったです‼できればでいいんですが後日譚や番外編が読みたいです…‼ (2022年7月11日 2時) (レス) id: e80a4daaf8 (このIDを非表示/違反報告)
防弾チョッキ - ここでか・・・ここで終わるか・・・続き読みたいです！（無理はしないで下さい） (2022年7月4日 17時) (レス) @page12 id: 16da95312d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：葉月
| 作成日時：2021年2月6日 19時
