11錠目:『慌てず騒がず、適切対処』 ページ10
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彼からの電話に半分の信頼と安心、半分の呆れを覚えながら佐曽塚を待つ。
空調の効いた車内に30分。
「ゆっくりで良い」と声を掛けたものの、少し嫌な予感がする。何を持っていくかで迷っているのだろうか。
「.....明らかに遅いな」
忙しなく携帯の画面を何度も確認する。
1分、また1分と時間は過ぎていく。
あと10分待って戻らなければ、迎えに行こう。
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重たい扉を開く。
まず1番にベッド横に常駐している充電器に携帯を差し込む。暫くしたら再起動するだろう。
部屋着に普段着、印鑑。
最近ぶり返してしまった喘息の薬を持った。
『スーツなんて要らない、持ってきちゃダメだよ』
信号待ちをしながら、Aは格好良くそんなことを言っていた。確かに俺も持って行きたくはなかった。
俺を縛りつけていたネクタイを無造作に投げつける。会社にクールビズなど無かった。
「...あ、」
ふと、本棚に手をかけた。
星章学園という文字と、校章が大きく印刷された卒業アルバム。この1冊に、俺の青春の全てが詰まっている。
一人暮らしを始める時、最後まで持って行くか悩んだ。
今日の今日まで手に取ることは1度もなかったけれど、この重みのある、分厚い表紙に仰々しく厚いカバーが不思議と手に馴染んだ。
自然と手が動きページをめくる。クラスの個人写真に集合写真、後方には各部活紹介。サッカー部のページを何を考えるわけでもなく見つめ続けていた。
あぁ、ダメだ。頭の中にいくつもの今の俺には眩しすぎる思い出が流れてくる。
苦しかった朝練、巫山戯あった休憩時間、サッカー部だけ許された学校泊、合宿の浜辺特訓やBBQにスイカ割り、花火大会。
全ての場面に誰かの笑い声とAが居た。
呼吸が、苦しい。
「う゛っ.....っう、」
落ち着け、なんで今泣くんだ俺。
ダメなのに、泣いたらAにカッコ悪いって笑われてしまうのに。
それでも涙は止まることを知らなかった。
吸って吐くを繰り返す動作が出来ない。
玄関の方で扉が開き、慌ただしく駆け寄ってくる音がする。荒い呼吸を繰り返しながら音の鳴るほうへ顔を向けた。
「ちょっ...やっぱりッ!! どうしたの、体調悪い?!」
違う、という声が嗚咽で掻き消されて出てこなかった。
どうしてAは、俺が貴女を思い浮かべた瞬間に現れてくれるのだろう。
「俺...皆にッ...星章のみんなに、会いた、い...」
Aが再び慌てて俺にハンカチを差し出す。それでも涙と嗚咽は止まらなかった。
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12錠目:『記憶は厭にも補正が掛かる相場』→←10錠目:『高級車と蟠りing』
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星猫 - もう一つのpcがしました。初めまして!とっても素敵です!高評価しました! (2021年9月8日 11時) (レス) id: 7d3fe1e696 (このIDを非表示/違反報告)
棘水(プロフ) - ゆりりんさん» わ〜!! 勢いある挨拶ありがとうございます〜^^ ちまちま更新していきますので気長にお待ち頂けると幸いです (2021年2月2日 1時) (レス) id: f96d68692e (このIDを非表示/違反報告)
ゆりりん(プロフ) - まず最初に…好き!!(挨拶)続きが読みたくてたまらないです! (2021年2月1日 20時) (レス) id: 9679665185 (このIDを非表示/違反報告)
アインツバル - 棘水さん» 了解です!また何かあったら声掛けますんで、これからも更新頑張って下さい!! (2019年4月9日 15時) (レス) id: db0b681609 (このIDを非表示/違反報告)
棘水(プロフ) - アインツバルさん» コメントありがとうございます!! が、合作イベント....!!大変魅力的で参加したい気持ちは山々なのですが私生活の多忙や内容が合作内容が全く分からず他の皆様にご迷惑をかける可能性しかないので今回は辞退させて頂きたく思います....また機会がありましたら是非....!! (2019年4月8日 22時) (レス) id: c7cb6e701d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:棘水 | 作成日時:2018年7月20日 13時