【任せトゲ】うつ病患者佐曽塚瑛士、特効薬に出会う。【イナアレ】

21錠目:『勘違いとカンパニュラ』 ページ20

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湿風が勢いよく俺の髪を揺らし、思わず目を瞑ってしまうが、それでも無理に目を開けた。

それは捲り忘れていたカレンダーを一気に巻き上げ、生気の無い観葉植物は力無く旗めいた。

俺の直線上に居る佐曽塚は裸足でベランダに出ており、手摺に手を掛けただ立ち尽くしていた。


やばい、止めなければ、また___


｢馬ッ...鹿!! 佐曽塚お前!! なんでまたそうやって!!｣

｢折緒......? あ、おりおは｣

思わず駆け出し、同じく裸足で佐曽塚の両肩を掴みかかる。

｢俺と!! Aが!! どんな思いでお前を心配してるか分かってンのか!!｣

｢えっ、ちが...折緒、｣

｢たまに見せるAの悲しそうな顔......!! 10年間一緒に居るからわかるんだよ、無理してるって。......俺まで、苦しくなるんだよ...、｣

そんな俺に苦しそうな笑みを作りながら、そっと俺の手首を掴み、躾する親の様に腰周りに降ろされた。

｢ごめん、死のうとしてたわけじゃ無いんだ｣

｢......は?｣

｢一昨日死んでたら知らずに終わってたんだよね、朝日ってこんなに綺麗なんだな〜ってこと｣

｢え、いや...はぁッ!?｣

手摺に肘を掛け、ふにゃりと笑い目を閉じる佐曽塚に俺は安堵の溜息を零した。

｢次紛らわしいことしたらラーメン奢りな｣

｢に、にゃ〜...デコピンの次はラーメンかぁ｣

｢デコピン?...お前寝れてねーの? 俺が言えたことじゃねえけど｣

佐曽塚はワンテンポ遅れて頷き、色々考えちゃってと付け足した。

｢折緒は知ってるの? Aがどうして俺を助けることが出来たのか.....というか、Aがホームに居た理由｣

｢...あぁ、知ってる｣

｢Aに聞けないから、教えて欲しい｣

｢本人からじゃなくていいのか?｣

｢うん...きっとまた悲しい顔させちゃうと思う、から｣

ゆっくりと目を閉じ、全ての所作を余すこと無く語るように俺はぽつりぽつりと話し始める。

｢お前の会社とAの店って、電車の路線一緒だろ? 偶に前のこと見掛けてたらしいぜ｣

｢え、ほんと...? 全然気づかなかった...｣

｢まぁ、あの線の利用人数えげつないしな...しかもラッシュ時じゃあ余計に気付きにくいんじゃねえの｣

ベランダに積もった塵を意味もなく撫で、指先で弄ぶ。

｢んで、今日こそは声をかけようとお前の姿を見つけたら、満身創痍で飛んじまう一歩手前だったってワケ｣

｢Aが居なければどうなってたんだろ、俺｣

｢...運命って怖ぇよ、本当｣

気が付けば太陽が街全体を照らし始めた。

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