49話 ページ8
岩本くんと村上くんにお礼をしないといけない。
岩本くんの提案のおかげで私は演劇に出なくて済んだし、その提案は村上くんが私を庇ってくれたから出たものだ。
お礼をしないと。
お礼をしない、と。
お礼を、しない、と‥‥‥‥。
「きりーつ、気をつけー、礼ー」
『ありがとうございましたー』
あっという間に帰りのSHRが終わり、クラスメイトたちが次々に立ち上がり帰っていく。
村上くんだって呼び止める隙もないくらいあっという間に教室を出てしまった。
リュックを背負って慌てて追いかけると‥‥‥あ、岩本くんがいた！
少し先の廊下で岩本くんが携帯をいじっていたから急いで駆け寄った。
「‥‥‥岩本くん」
「あ、Aさん。どうした？」
「あの、村上くんは？」
「あー、あいつならトイレだよ」
そう言って目の前の男子トイレを指差す岩本くん。
だからここで立って待ってるのね。
「何か用事？」
「いえ。岩本くんと村上くんにお礼を、言いたくて」
「お礼‥‥‥？」
「さっきの文化祭の話し合いで。ああいう提案をしてくれて、ありがとうございました」
何度も頭の中で考えた文章を言い切ってから頭を下げた。頭を上げると岩本くんが笑っていて、イメージとは異なる笑顔の柔らかさに少し戸惑う。
「別にわざわざ良かったのに。‥‥‥でも、せっかくお礼を言ってくれるならもう少し笑って欲しいかな」
「‥‥‥‥あ、ごめんなさい」
「ふふ、ラウールも言ってたからさ。Aさんを笑顔にしてやりたいんだって」
「え、どうして？」
「さぁ、それは分かんないけど。‥‥‥あいつにはちょっとでいいから笑って言ってあげてよ。めちゃくちゃ喜ぶと思うよ」
クシャッと笑ってそう言ったとき、ちょうどトイレから村上くんが出てきた。
「お待たせお待たせ‥‥‥‥え！Aさん？」
「あ、村上くん‥‥‥‥」
「‥‥‥どうしたの？」
「あの、さっきみんなをまとめてくれたり。庇ってくれたり、」
待って、私今顔固まっちゃってるよね？
がんばれ、私の口角‥‥‥！
「‥‥‥‥本当に、ありがとう」
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作者名：Haniko | 作成日時：2022年11月23日 11時
