58話 ページ17
"お嬢さんお嬢さん。ここに美味しいりんごが一つあるんだ。買ってくれないかい？"
"まぁ、とても美味しそうなりんごだわ‥‥"
"ヒッヒッヒッ‥‥‥どうぞ"
"ありがとうおばあさま。お一ついただくわね。パクッ‥‥‥‥ウッ"
「はい、ストップストップ！！！！」
部長の声でセリフが止まった。
今は絶賛『白雪姫』の稽古中である。
文化祭を明日に控えてより練習に熱が入っていた。
‥‥‥主に部長の。
「はい。じゃあ最初からダメ出ししていくので台本持ってください」
「はーい。‥‥‥ちょっとガチすぎね？」
「あいつの目見てみ？ガン決まりよ？」
「早く集合！！！！時間ないぞ〜」
「‥‥‥はーい」
いつもクラスで私と同じくらい物静かな彼は演劇になると人が変わったように厳しい獰猛な目つきで指導をする。
それに対して生徒たちからは案の定文句が垂れているけど、そんなのどこ吹く風？と無視して部長は今日もダメ出しを始める。
「16ページ2行目、ラウール」
「はい？」
「ここ、もうちょっと可愛らしい感じで言ってください。もう疑ってる感じ出ちゃってるから」
「‥はい。まぁ、伝えておきます」
「次、16ページ12行目、ラウール」
「はい？」
「ここスキップする感じで言っちゃって良いよ？美味しいりんごもらってテンション上がってるんだから」
「‥‥うん。本人じゃないからさ？俺に言っても仕方ないから他の人に」
「次、17ページ5行目、ラウール」
「はい？」
「ここまっったく感情こもってなかった。一番酷い！！」
「だから俺代役なんだってば！！！」
部長が配役を決めた結果、白雪姫は村上くんではなく私のクラスで一番背の低い生徒が務めることになった。
周りのクラスメイトからは散々揶揄われて少し可哀想だと思ったけど、選ばれた本人は満更でもなさそうに稽古に真剣に取り組んでいる。今日は急遽お休みなんだけど。
そして今代役を務めている村上くんのポジションは、なんと舞台監督だ。
演出の補佐のような立場で、稽古日程や練習場所の確保など中心となって行っている。
(陰で村上くんが白雪姫にならないよう部長に土下座して泣きついた、という説もある)
かくいう私は照明に決まった。
本番は裏で照明を操作したりするから、これで人前には出ないことが約束されて一安心。
結局その後も村上くんへのダメ出しは続き、15分後にやっと休憩に入った。
ヘトヘトの村上くんが私の方に寄ってくる。
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作者名：Haniko | 作成日時：2022年11月23日 11時
