1つの不安 ページ30
身をよじらせながら、舌を絡め続ける。
ときどき離れる唇の隙間から、私は吐息混じりにつぶやいた。
「一つ、不安なことがあって……」
「なんだ？」
私の服のボタンに手をかけるゾロの手が止まった。
「私さ、仕事が仕事だからいろんな人の相手をしなきゃいけないでしょ」
再び泣きそうになってきて、震えて上擦った声が出た。
「その、なんていうか、こんな風に愛し合うたびにゾロは他の客のことを連想してしまうんじゃないかって」
至近距離で見下ろすゾロの瞳に吸い込まれそうになる。
「それが、辛いと思わせてしまいそうで不安なの」
そこまで言い切ってから、急に視界が滲んだ。
頬を伝って耳の当たりまで流れた涙が、ぽたりとシーツを濡らした。
今この瞬間のように、ゾロの愛を感じれば感じるほど、デリヘルの仕事を始めてしまったことをひどく後悔してしまう。
ゾロに触れるこの唇も、舌も、手も、身体も、全部、他の客から適当に汚された中古品であるかのように思えてくる。
初恋がゾロで、ゾロ以外の人を好きになったことがないにもかかわらず、私は男の人を知りすぎてしまった。
初めて知る男の人の肌や体温は、ゾロのものであってほしかった。
「たとえば、一度絵の具をつけたキャンバスを白く上塗りしても完全に元通りにならないのと同じで……どんなにシャワーを浴びても落とせない“汚れ”ってあるんだよ」
泣きながら絞り出したその言葉の響きが、虚しい。
ゾロは表情を変えないまま、大きな手で私の涙を拭った。
涙が伝った跡に優しくキスを落とされる。
「たしかに白く塗ったとしても元通りにはならねェかもしれないが」
私はシーツをぎゅっと握って、ゾロの口から発せられる言葉に耳を傾けた。
「たとえどんなに嫌いな色で塗られていたとしても、その上から好きな色をたくさん重ねて、重ねて、重ねまくれば、いい絵になるんじゃねェのか」
「えっ」
「その“汚れ”とやらが気になるんなら、Aが好きな色をたくさん重ねてェし、他の客の相手をして心に穴が開いちまったときは、そこにたくさん愛を注いで満たしてェ」
「ゾロ……」
「その役割を果たすのは、おれじゃだめか？」
次から次へと涙が溢れ出す。
「ありがとう……その役割は、ゾロにしか果たせないよ」
ゆっくりと、ゾロの首に両手を回した。
心の中は、幸せな気持ちでいっぱいだ。
少しずつ、何度も、好きな色を重ねていくように。
汗ばんだ肌と肌がしっとりと重なる。
私は全身でゾロの愛を受け止めた。
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miku(プロフ) - 桜さん» 最後まで読んでくださってありがとうございます！最近はなかなか執筆できていないのですが、今でもこうしてコメントをいただけるとまた時間のあるときに書いてみようかなという気になれます😭🫶🏻 (2022年11月14日 17時) (
レス) id: 761cc2fde5 (このIDを非表示/違反報告)
桜 - とっても、素敵な作品でした。 これからも頑張ってください！ (2022年11月12日 22時) (レス) @page33 id: a028b5c607 (このIDを非表示/違反報告)
miku(プロフ) - 星猫さん» アニメ全然観てないんですよ、、ワンピ以外のジャンプ作品だったら銀魂と鬼滅くらいです (2021年9月8日 13時) (レス) id: fed98eab61 (このIDを非表示/違反報告)
星猫 - 知ってるアニメは何ですか？ (2021年9月8日 7時) (レス) id: f84c743866 (このIDを非表示/違反報告)
miku(プロフ) - 星猫さん» 最初のコメントでこんな嬉しいお言葉をいただけるなんて！高評価までありがとうございます！！ (2021年9月8日 1時) (レス) id: fed98eab61 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：miku | 作成日時：2021年9月4日 1時
