36.8℃ ページ17
結局、押しに流されてしまい、今回もゾロの言葉に甘えてしまう形になってしまった。
特にやることもない私はソファーに座って、筋トレをするゾロの後ろ姿をぼんやりと眺める。
それにしても、いくら幼なじみとはいえこんな風に大金を叩いてまで私を助けようとするのは普通のことなのか──それが妙に引っかかった。
もしも、万が一、いや億が一、ゾロが私を好きだからという理由で優しくしてくれているのだとしたらどうしよう。
そんな杞憂にも近い考えが、ふと、もくもくと浮かび上がって消えない。
この前ゾロと9年振りに再会したときに、私はこの恋を諦めようと心に決めた。
大好きだという気持ちは変えられないけれど、隠し通すことはできる。
デリ嬢の私と付き合ったって、ゾロを不幸にしてしまうだけだ。
仮に「仕事のことは気にしない」と言ってくれたしても、肌を重ねる度にゾロが他の客のことを連想してしまうのは、火を見るより明らかなこと。
きっといつか、私を愛することが辛くなるときがくるにちがいない。
ゾロにはそんな辛い思いをさせたくない。
「A。おい、A？」
突如、ゾロに名前を呼ばれて我に返る。
「ん？」
「何度か呼んでんのに無視かよ」
「あ、ああ。ちょっとぼーっとしてた……」
急に話しかけられ、力ない返事をしてしまった。
ゾロはダンベルを置いて私の方へ歩いてくる。
「もしかして、体調でも悪ィんじゃねェのか」
「いやいや、それはない。大丈夫、元気！」
顔の前で両手を振りながら慌てて否定したのが逆効果だった。ゾロに顔を覗き込まれた。
急に縮まる距離に耐えられず、私は顔を逸らす。
昔からゾロは鈍感なようで、変なところで勘が鋭いことがある。
これ以上ゾロと目を合わせていると、私が頭の中で考えていることがすべて見透かされてしまいそうな気がした。
「熱でもあんのか？」
ごつごつとしたゾロの手が、私の額にピタリとくっつけられた。
「少し熱いぞ」と言いながら、訝しげに目を細めるゾロ。
耳の近くで聞こえるその低い声、余計に私の顔が火照ってくる。
熱いのはあなたのせいです、と言えるはずもなく。
「え、ええ？ こ、これが私の平熱だけど？ 結構な確率で36.8℃！」
我ながら、かなり苦しい誤魔化し方になった。
このままだと気持ちを隠し通すことができなくなるかもしれない。
そう思った私は迷いを断ち切って、勢いよく立ち上がった。
「やっぱり私、帰るね！」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 286人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ONEPIECE」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
miku(プロフ) - 桜さん» 最後まで読んでくださってありがとうございます！最近はなかなか執筆できていないのですが、今でもこうしてコメントをいただけるとまた時間のあるときに書いてみようかなという気になれます😭🫶🏻 (2022年11月14日 17時) (
レス) id: 761cc2fde5 (このIDを非表示/違反報告)
桜 - とっても、素敵な作品でした。 これからも頑張ってください！ (2022年11月12日 22時) (レス) @page33 id: a028b5c607 (このIDを非表示/違反報告)
miku(プロフ) - 星猫さん» アニメ全然観てないんですよ、、ワンピ以外のジャンプ作品だったら銀魂と鬼滅くらいです (2021年9月8日 13時) (レス) id: fed98eab61 (このIDを非表示/違反報告)
星猫 - 知ってるアニメは何ですか？ (2021年9月8日 7時) (レス) id: f84c743866 (このIDを非表示/違反報告)
miku(プロフ) - 星猫さん» 最初のコメントでこんな嬉しいお言葉をいただけるなんて！高評価までありがとうございます！！ (2021年9月8日 1時) (レス) id: fed98eab61 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：miku | 作成日時：2021年9月4日 1時
