でっかい愛

見守る月。1 ページ1

緑side


ずっと、自分を偽ってきた。


生涯、隠し通す、

その覚悟で生きてきてん。



大切に思える人と出会って恋に堕ちて、

結婚して、あったかい家庭を作る。


そんな人並の幸せなんか、

とっくの昔に諦めた。
　

幼かったあの日、
はじめての恋に破れた時に。


大人になった、今の俺は・・・


周囲に上手く擬態して、

普通を演じきれてる、はず。


ベータとオメガは、一緒にはなられへん。

たとえ誰より大好きな相手でも。












就活は散々やった。

オメガってだけで、
何社も落とされて。


ジェンダー差別のない社風を謳ってる、
大手企業に建築士として内定した時は、

ほんまにほんまに、命助けてもらった気分やった。


もう３年も前のことやのに、
あの不採用の追い詰められた日々については、
今でも鮮明に思い出せる。


平凡な他の人間と違って、
生まれつきハンデを負ってる自分は、

生き延びるだけで毎日が精一杯。


申告義務があるから、
経営陣には勿論バレてるけど、

俺がオメガやってことは、

プライバシー保護の法に守られて、
同じ設計室のみんなには秘密。


もし気付かれたら、そう考えるだけで怖い。


まだまだ、日本では、

オメガ性に対する差別意識は根強く残ってる。


下に見られるのは明らかやし、

仕事面でも理不尽な扱いを受けるかもしらん。


入社以来この３年。

それこそ、しゃかりににやってきたし、

仕事でも成果を出してきた。


この居場所だけは、絶対になくしたくない。



ヒートの時は、なんとか乗り切ってきた。


長期休暇や有給、
リモートは全部、ヒートの時に使ってるけど、

毎回そんな上手く当たるわけないから、
抑制剤で抑えてるんがほとんどやけど・・・


ヒート期間ではない普段は、なるべく残業して、
仕事をためへんようにもしてる。


今日も、

受注した分と、

明後日のコンペの分の設計図、
丸々やりきってから、

７階の設計室を出た。


夜の２０時。

社内のビルには、ほとんど誰も残ってないみたいや。


ビルを降りると、
薄暗いエントランスに、人影。

受付の女の子ももう帰ったはずやのに・・・

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