75年前の話 ページ10
75年前……、別の世界で大きな戦争がありました。
いくつもの国同士が争って、沢山の人が死んでいきました。
私はその戦場に行ったんですよ。
あぁ、別に戦いに行った訳ではありませんよ。私は、人間を殺めるような真似はしません。
あそこは……恐ろしい場所でした。
機銃や大砲の音、火薬や死体が腐った臭い、全部覚えています。
夜、ジャングルを歩いていると声がするんです。苦しそうに呻く声や励まし合うような声……。
夜が明ける頃には、その声は聞こえなくなってしまうんです…………。
それが、何とも……。その……。
え? 何をするために行ったのかって?
戦争中に書かれた文書や本、手記や日記の複製を作るためです。
これほど大きな戦争は初めてのことなので、資料として残しておきたいと館長に頼まれたので。
戦争が終わった後、それらが確実に残っている保証はないですからね。
実際、戦後に多くの文書が処分されてしまいました。他の物と一緒に燃やされてしまったり、インクで塗りつぶされてしまったり。
どれくらい回収できたか?
そうですね……、大体……、ええっと……、うーん、あー、2万と、4000…………200……、40、8いや3でしたかね?
かなりの数を集めましたよ。これでも戦争中に書かれたものの半分にも届きませんがね。
本当に大変でした。
強制収容所、銃弾が飛び交う戦場、屋根裏、ジャングル、政府の建物、潜水艦、戦艦、霧に包まれた無人島、火に包まれた町、焼け野原、色々な場所を回って集めるのは本当に大変だったんですよ。
何度も危険な目に遭いましたし、死にかけました。
中でも一番身の危険を感じたのが、ジャングルで虎に出会ったことですね。私よりも大きな虎に食べられそうになったんです。
ガサガサと草むらが揺れて虎が飛び出してきたんです。
怖いなんてもんじゃありませんよ。こちらの世界の生き物と違って話が通じないですから。命乞いも通用しませんしね。
あのときは確か……、あぁ、近くに手榴弾が投げ込まれたんです。
音に驚いた虎は逃げていって私は助かりました。
笑わないでください。本当に死ぬかと思ったんですから。
まぁ、私は死にませんが……。
次は、貴女の生まれた町の話でもしましょうか。
43年前……、ですかね。

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そこら辺の水道水(プロフ) - 神だ・・・神に出会ってしまった… (12月29日 17時) (レス) id: 44bf365a1c (このIDを非表示/違反報告)
白猫(プロフ) - とても面白くて一気に読み進めてしまいました…! (9月13日 21時) (レス) id: b13ee48946 (このIDを非表示/違反報告)
lkwisterven - タイトルにつられてやってきました!めっちゃ面白いです (2019年8月17日 11時) (レス) id: a124146768 (このIDを非表示/違反報告)
みるくプリン(プロフ) - はじめまして!タイトルに惹かれて一気読みしました。面白かったです(*^^*)更新楽しみに待ってますねっ。 (2019年8月9日 13時) (レス) id: 7db76bcf0c (このIDを非表示/違反報告)
あいうえお - 何故か声が聞こえてきます......(幻聴)妄想が膨らんでとてもおもしろいです! (2019年8月6日 22時) (レス) id: d4ea0d195c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:衛生兵079 | 作成日時:2018年7月19日 17時