別れの言葉を ページ21
「何って……、うーん。片付け」
「片付ケニソノヨウナ装備ハ必要デショウカ？」
「あぁ、必要だよ。これ使うとうまく溶けて形がすっかりなくなるんだ。でも、体に悪いガスが発生するからガスマスクを使う。まぁ、命に関わる程じゃないけどな」
そう言いながらガスマスクを着ける。視界が狭まり、少し作業がし辛くなるが我慢するしかない。
「ムーンは着けるか？」
「私ハ大丈夫デス」
「そうか。いや、一つしかないからさ、どっち道お前の分はなかったんだよな」
「自分ノヲ譲ルトイウ選択肢ハ……」
「ない。また一ヶ月手足と顔半分痺れるのはごめんだ」
「試シタノデスカ？」
「するわけないだろ、事故だ。ムーン。事故らないためにも一応換気扇つけてくれ」
「ハイ」
風呂場に設置された換気扇が動き出したのを確認し、浴槽に入った体に薬品をかける直前、ふと思い立った。
「ムーン。お前の産みの親に別れの言葉を」
そう言うと、ムーンはキョトンと首をかしげた。
「……別レノ言葉？ 死体ハモウタダノ物デス。掛ケル言葉ハアリマセン」
「一応お前の家族だったんだろ、もう会えなくなるんだ。だから別れの言葉くらい……」
「必要アリマセン。ソレニ、……ソレハ家族トハ呼ベナカッタノデ」
「……そうか。じゃあ、しょうがないかぁ。片付けよう」
本当はしょうがないなんてことない。家族とは呼べないって？
一体何が、どうして、こんなに大事なものをそうと言えないなんて、機械だからか、それとも家族とは別の物という設定だった？
考えないようにしよう。何事も深入りは禁物だ。
薬品を浴槽の体にかける。
量は少ないがこれだけあれば十分だった。
白いガスが出て、オブラートみたいに簡単に体が溶けていく。
全部混ざって一つになる。
ここに自分も飛び込んでしまいたい、そんな衝動を押さえて、どろどろと一つの家族が一つになるのを見る。
夢中になって見ていると、服の裾をくいと引っ張られた。
「凄イデス。ドコデコンナ薬品ヲ？」
「あぁ、これ？」
薬品を入れていた空っぽの瓶を見せるとムーンはそれだ、とうなずいた。
「俺がたくさん研究と実験して作ったんだ。俺しか知らない薬品。骨も何もかも綺麗に溶けるんだ、でも浴槽とかは傷つかない、凄いだろ？」
ムーンは驚いたような表情を浮かべた。
「……あしっどニ聞キタイコトガマタ増エマシタ」
しばらく待つと、体は原型をすっかり失い液状になった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 31人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
慈雨 - この壊れっぷりがたまらないです！本当に大好きです！頑張って下さい！ (2018年8月1日 21時) (
レス) id: 15d4cc16a2 (このIDを非表示/違反報告)
ネギトロ@38(プロフ) - コメント失礼します。とても引き込まれ、次へ次へと読み進めてしまいました。更新、頑張ってください (2018年6月3日 9時) (レス) id: 367ddc4bce (このIDを非表示/違反報告)
柳(プロフ) - ピペットくんのぶっ飛び具合、たまりませんヾ(´∇｀)ﾉ それに、駒込ピペットから名付けるなんて羨ましいほどのセンスの高さ！素敵です！これからの展開も、楽しみしています！ (2018年5月25日 3時) (レス) id: 4785678acf (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：衛生兵079 | 作成日時：2018年5月13日 20時
