回収 ページ40
薄暗いジメジメとした森の中を妙な男が1人、ずんずんと進んでいく。
男は左手には人の頭ほどの大きさの四角い何かを風呂敷に包んだものを持って、右手には赤く錆びたのこぎりを持っていた。
そして着ているのはやたらと綺麗でかっちりとした黒いスーツで、森に入るには適していない服装だ。
それでも男は、前日の雨でぬかるんだ地面や、地表に張り出した木の根や、ゴロゴロと転がる岩、朽ちかけた倒木等も意に介さずどんどん進んでいく。
しばらくして男は森の奥にある大きな欅の前で足を止めた。
幹は両腕で抱えきれないほど太く、枝は大きく広がって葉が空を覆うように茂っているため太陽の光はほとんど届かない。
そんな立派な木の枝の一本を男は真剣に見つめていた。
「もし、そこのお方」
男が口を開いた。
「何用かな」
森の奥から低く地面が揺れるような声が返ってきた。
「引き取りに来たのですが、こちらでよろしいのですか？」
枝からは視線を動かすことなく男は言う。
「あぁ、これだ。これだ。全く重くてしょうがない。私は肉を吊るす道具じゃないんだが、最近増えて困っとるんだ」
風もないのに葉がざわざわと揺れた。
「はい、はい。分かりました。回収にあたって枝を少々切り落とすことになりますがよろしいでしょうか？」
男が言うと、より強く葉が揺れた。
「それは困る。のこぎりは嫌じゃ。今落とす、それでもいいか」
「……えぇ、自力で落とせるのなら構いませんよ」
今度は葉だけでなく、枝や幹と木全体が激しく揺れ始める。
べたりと激しい音を立て、枝に吊り下がっていた肉が落ちてきた。
すると木は振動をぴたりとやめ、あたりに静寂が戻ってくる。
男は迷わず肉に近づき、風呂敷に包んで持ってきていた白い箱に肉を詰め始める。
「ありがとうよ」
低い声が言う。
「これが、私の仕事ですから」
そう答え、淡々と無駄なく丁寧に肉を箱に詰めていく。
不思議なことに肉よりも小さい箱なのだが、全ての肉が丁度ぴっちりと箱に収まってしまった。
男は箱を閉めまた風呂敷で包むと、それに向かって深く一礼してから左手で持ち上げた。
「それでは、私はこれで」
それだけ言って男はもと来た道を戻っていく。
「また肉が吊れたら来とくれ。今度はもっと新鮮なうちに」
その声に男は軽く右手を上げて答えた。
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ワモテ(プロフ) - この独特な世界観が好きです！ (2022年6月28日 19時) (
レス) @page4 id: d60369b53d (このIDを非表示/違反報告)
切り紙 - 衛生兵079さん» やっぱりそうでしたか！ありがとうございます！ (2022年4月12日 21時) (レス) id: 3ea5ee90fc (このIDを非表示/違反報告)
衛生兵079(プロフ) - 切り紙さん» 同じお店です。女性はそのお店の店長さんです。 (2022年4月12日 20時) (レス) id: fb9fb2071f (このIDを非表示/違反報告)
切り紙 - 衛生兵079さん» あ、あっ…！上手く言い表せないんですけどもう全部好きです((それで思ったんですけど、この話の女性が開いてるお店って道案内に出てきたおじさんが言っていたのと同じですかね？ (2022年4月12日 20時) (レス) @page38 id: 3ea5ee90fc (このIDを非表示/違反報告)
衛生兵079(プロフ) - 切り紙さん» リクエストありがとうございます。風、空ですね、了解しました。 (2022年4月12日 10時) (レス) id: fb9fb2071f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：衛生兵079 | 作成日時：2017年12月25日 23時
