あなたは ページ18
真っ黒だ。
何もない、真っ黒な空間。
それはどこまで続いているのかは分からない。
どこまで行っても終わりのない、何もない場所で私は生まれた。
生まれた、というのは少し違うかもしれない。
私という人格が、意識だけがこの真っ黒な空間にいつの間にか存在していた。
普通の生き物であればあるはずの肉体はなく、形もない、見えないが確かに私はそこにいた。
ある時、その空間に人が1人現れた。
「やぁ、はじめまして。私と一緒に来てくれないかな?」
そう言ってその人は実体のない私のいる方向へと右手を差し出した。
「私は図書館の館長をやってるんだけどね、今人手が足りないんだ。だから私と来てくれ」
なぜわたしを?
「君は、ここじゃない世界を知りたいと思っただろう?」
なぜかその人は私がどこにいるか分かって、私音のない言葉を理解できた。
「ここじゃない場所に君の居場所を用意しよう、ちゃんと君のための体も用意しよう、必要なものは全部用意してあげるよ。その代わり私の図書館で働いてもらうけど」
優しくその人が言う。
確かに私は、ここでない場所を知りたいと思っていた。
このなにもない世界じゃないどこか……。
私はどこにも行けないと思っていた、でもこの人がいれば……。
「どうする?」
いきたい。
あなたといっしょに。
差し出された手を取った。
「良かった。じゃあ早速、君に名前をつけよう」
なぜ?
「君がここから出るためには、君を知ってる人から名前を貰わないといけないんだ。君を示す君だけの、名前をね」
なまえ……。
私には名前がなかった。私を知っている人も、呼ぶ人もいなかったから。
「そうだな、君の名前は……」
ん? あぁ、すみません。少し居眠りをしていたようです。
はい、次は気を付けます。前はこんなことなかったのですが、……年ですかねぇ。
あ、その本はイの棚の102番にお願いします。
それは彼女が借りたいと言っていたので受付に持っていってください。午後には来るそうなので。
ああ、この本ですか? この本は彼が今回収に行っているはずです。明日には戻っていますよ。
……おや、お目覚めですか?
おはよう。
今回はずいぶんと早いですね。
大丈夫ですよ。
……分かりました。そこに座ってください。
では、あなたが寝ていた間の124年分の話をしましょう。
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ワモテ(プロフ) - この独特な世界観が好きです! (2022年6月28日 19時) (レス) @page4 id: d60369b53d (このIDを非表示/違反報告)
切り紙 - 衛生兵079さん» やっぱりそうでしたか!ありがとうございます! (2022年4月12日 21時) (レス) id: 3ea5ee90fc (このIDを非表示/違反報告)
衛生兵079(プロフ) - 切り紙さん» 同じお店です。女性はそのお店の店長さんです。 (2022年4月12日 20時) (レス) id: fb9fb2071f (このIDを非表示/違反報告)
切り紙 - 衛生兵079さん» あ、あっ…!上手く言い表せないんですけどもう全部好きです((それで思ったんですけど、この話の女性が開いてるお店って道案内に出てきたおじさんが言っていたのと同じですかね? (2022年4月12日 20時) (レス) @page38 id: 3ea5ee90fc (このIDを非表示/違反報告)
衛生兵079(プロフ) - 切り紙さん» リクエストありがとうございます。風、空ですね、了解しました。 (2022年4月12日 10時) (レス) id: fb9fb2071f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:衛生兵079 | 作成日時:2017年12月25日 23時