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今じゃ〈 紫耀くん 〉、俺をそう呼ぶあいつはいつの日か、「一目惚れって信じますか？」と言った。逆にお前は信じてんの？そう聞きたかったけど、モラルが俺を邪魔する。
反射的にオデコに手を当てたのは俺も失態だったと気付く。年頃の女子高生を無闇に触るなんて、どうかしてる。だけどあいつは、顔を赤くして走って出て行ってしまった。心音が早まり、職員室という神聖な場所で息が詰まりそうになった。
「呼び出すなら職員室じゃなくて誰もいないとこにして」と、生意気に場所指定までしてきた。理由を聞けば「紫耀くんと２人になりたい」とか抜かすから心底１８歳の恐ろしさを知った。内心、喜んでる自分にも反吐が出そうになるし、何度も理性というものを失いそうになった。
かと言って、教育に手を抜くわけにはいかない。実際何かに悩んでいるなら話を聞くし、担任ではないけど生徒のチカラになりたいとは思ってる。
帰り際、カバンをだらしなく肩にかけ、スカートは短く折り、気怠そうに歩く葉山と遭遇した。何を思ったのか、彼女を見るなり「ちょっと時間ちょうだい」なんて呼び止めて、一服するなんて口実で。
喫煙スペースに向かえば数学の夏井先生と鉢合わせた。一度だけ熱で倒れた夏井先生を家まで送ったことはあるけど、生徒たちの間で噂されてるような事実は全くない。葉山の耳にも、もちろん入ってるだろうな。
「平野先生お疲れ様です」
「お疲れ様です」
「また葉山さん？」
「またってなんですか」
「特別扱いは生徒から反感食らいますよ」
「は？別にしてないっすけど」
ムキになるのはきっと、図星。
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作者名：詠夢
| 作成日時：2021年8月10日 17時
