▼ kt ページ35
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kaito side
伝えるなら今しかないと思った。
Aの様子がおかしいのは薄々気付いてて。平野との関係が動き始めてるのも分かってて。あんなに動揺するなんて相当だろうな。お互いの気持ちが噛み合ってないみたいな、そんな感覚に気付かざるを得ない。不器用すぎる２人の想いが、俺の目の前で交差する。
電話に出てくれないのも分かってた。家に行けばAのママは快く招き入れてくれた。弱みに漬け込むなんて俺らしくないけど、そうでもしないと俺のこと見てくれないでしょ。
だからいっそ、全部俺のせいにしてほしかった。平野に抱いてる気持ちも、拭えない想いも、伝わらないもどかしさも、俺が掻き乱してやりたかった。何かの理由に俺が存在してほしかった。
いつまで我慢すればいい？本能のまま、近づく距離に、Aは一歩だけ後退り。背中に回る腕を静かに受け止めた。
「今だけだから、ごめん」
「………」
「忘れていいから」
どうか、忘れないでほしい。
俺がこんなにも君を好きだということ。
心のどこかで覚えておいてほしい。
「Aが好き」
一粒流れた涙はAの肩に落ちた。
もう戻れないこと、分かってるから。
身体を離してAを見れば泣いていた。それは俺に対しての涙でいい？
……なら、いいよ。もう充分だよ。
「……ごめんっ、ね、」
ああ、" ごめん " なんて言葉は誰が作ったんだろう。言う方が辛いなら、言われる方はもっと辛いのに。
" ごめん " に変わる何か、俺が見たいのはAの笑顔だよ。
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作者名：詠夢
| 作成日時：2021年8月10日 17時
