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ガシッ
逆の手で紫耀くんに腕を掴まれ、勢いよく座席ごと押し倒された。何もかもどうでもよかった。感情が追いつかない、こんな状態でも目の前で私の上に跨る紫耀くんが、こんなにも好きで好きで堪らない。
「嫌なら拒否って」
「………」
「ほんとにいいの？」
「……うん」
いつの日か、夢の中で見た光景そのままだった。
その夢の続きが今見られるのなら、私はなんだって受け入れるよ。ワイシャツに掛かる紫耀くんのカサついた指が肌に触れた。ビクッと反応する自分自身に紫耀くんの目付きも変わる。脱がされると思い、目を瞑れば掴まれていた右腕を離された。
「……ごめん、」
「……どうして、」
「……帰ろう」
まただ。また「ごめん」……そんな言葉は聞き飽きた。勝手に自己解決して、 謝らないでよ。
踏み込んできてよ。私の心全部奪っといて、矛盾すぎる言動に、期待は募る一方。もう戻れないんだよ、紫耀くん。私、本気で好きになっちゃった。先生なんて知らない。今、目の前にいる紫耀くんが好きなの。
何を言っても変わらない現状に溜息が漏れる。家に着いて自分の部屋に入るなり崩れ落ちた。どうやってここまで上がってきたかも記憶がない。どうやって紫耀くんとバイバイしたかも覚えてない。ただずっと、噛み締めながら私を見下ろす弱々しい紫耀くんが頭から離れなかった。
着信：�盒恭た�
こんなタイミングで海人から電話。今出たらまた迷惑をかけてしまう。着信音が鳴り止んだ途端、インターホンが鳴った。
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作者名：詠夢
| 作成日時：2021年8月10日 17時
