嫌いでもいいよ。【mfmf】 (ページ5)

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「今日は転校生を紹介します！
今日から皆の仲間入りをする、
嶺空Aくんです。
みんな拍手で迎えましょう！」

疎らな拍手が教室に響く。

Aは「ありがとう」の代わりに
柔らかく笑い、お辞儀をする。

クラスメイト達は不思議そうに、
でも興味津々にAの顔を見つめた。

Aは特に緊張する様子も無く、
ただゆっくり瞳を左右させて
クラスメイトの顔を頭に入れていた。

先生が軽く咳払いをする。

「えっと、実は嶺空くんは
声が出せない病気です」

クラスメイトは全員静まり返った。
そしてより一層興味を持った瞳で、
転校生の彼をじっと見つめた。

誰を見ても目が合ってしまうので、
Aはクラスメイトの顔を見るのをやめて
少し遠くを見つめた。

「先生、俺ら手話とか、
そういうの出来ないけど大丈夫なの？」

綺麗な焦げ茶色の髪の男子が
軽く手を挙げて質問した。
先生は彼に視線を向ける。

そして、柔らかく女性らしい笑みを浮かべた。

「はい、そうですね。
彼自身手話は取得していないそうです。
なので、嶺空くんは皆と主に筆記で会話です。
授業中は黒板に答えを書くものだけ
発表をしたいとのことです」

さっき別室でAと話した内容を
殆どそのまま答える先生。

丁寧だな、とAは敬った。

「えー、不自由なこともあると思いますが、
皆で助け合い、協力していきましょう」

席はあそこだ、と教えられ
Aは廊下側の真ん中の席に座った。

「よろしく！」

隣の席はさっきの男子だった。
よろしく、という意味でAは
小さく会釈をした。

その時間はそのまま休憩に入った。

「なあなあ、お前のことなんて呼べばいい？」

Aは手帳を取り出すと、
「なんでもいい」と書いた。

それを見た彼は、
「じゃあAで」と言った。

「俺、桐原咲。咲でいーよ」

手帳に「OK、咲」と書かれたのを見て、
咲はニッと笑った。

高校一年の一学期後半。
これがAと咲の出会いだった。