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38話 ページ38

その後、Aはトリプルを狙ったようだったが外れ、次のラウンドでゼロにしたイルミがこのゲームを制した。
Aは自分の番が来る前に呆気なく終わったことで、「うわぁ」と項垂れソファに突っ伏した。そして、その状態のまま顔を上げ、さっさと帰ろうとするイルミに問いかけた。


「パパ怒ってたかな」
「さあね」


Aは他人のことをよく気にする。
相手を気遣っていると言えば聞こえが良いが、それは自分が良く思われたいということでもあった。

数年前までは誰からか必要とされ、見捨てられたくない見限りをつけられたくないと縋っていた。そのためにやれることはなんだって出来るまで努力した。
そしてある日、一本の糸に救われ、地獄から地上までは登ってこれた。これまでの努力が報われたわけではないが、新しい道に進むことができた。


「でもやっぱりイルミは凄いね」


それでも、Aが幼い頃に抱いていた劣等感が、無意識に言葉になって浮き出る。自分が何より嫌った比べられることをついやってしまっていた。いつまで経っても治すことのできないダメなところだった。

また、Aは自分の話をしない。
相手が良い反応をするとは限らないというほんの小さな理由だった。誰よりも自身を否定されるのが怖かった。自分でも分かっていることを改めて直接言われるのは耐えきれなかった。

これまでにやっとの事で積み上げてきた自己肯定感を崩されないように固めてきた。しかし、その堤防は決して頑丈ではない。あの時の自分がまた地の底から這い上がってくるような感じに時々襲われる。

Aはそれに解放されたと思っていたが、未だにその名残があった。



そして、イルミはAに対して何も言わずにプレイルームを出た。後ろ姿が扉の向こうの闇に紛れて消えていった。再び静寂が訪れたその部屋でネオンライトがAを照らした。

Aはボードに刺さったダーツを抜く。イルミが投げて深く刺さっていたのを力任せに抜くと指に痛みを感じた。先端が針になっているタイプのようで針先が皮膚を掠めたのだった。斜めに切り裂かれた傷からぷくりと血が出てきた。

そして、Aは片付けるつもりでいたが、1人でダーツを投げていた。まだ心の片隅にイルミの隣に並んでいたい、置いていかれたくないという気持ちがあった。それは闘争心から生まれたものか、はたまた違うものかは分からない。



物理的では一向に埋まらないその距離がふたりの間にあった。

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マニ。(プロフ) - 連載の方とかの新しい作品とか待っています!これからもボードの方でも仲良く、ファンとして遠くから応援してます!おかか様! (10月8日 9時) (レス) id: e240ea4865 (このIDを非表示/違反報告)
おかか(プロフ) - 千凪さん» ありがとうございます。嬉しいです! (2022年3月10日 14時) (レス) id: 9b9f4760f3 (このIDを非表示/違反報告)
千凪(プロフ) - すごく面白いです!続きがとても楽しみです (2022年3月9日 7時) (レス) id: 129c41ba6d (このIDを非表示/違反報告)
おかか(プロフ) - リトさん» コメントありがとうございます。感想を頂けて嬉しいです!頑張ります!更新は遅いですが今後も読んでもらえたら幸いです。 (2022年2月28日 21時) (レス) id: 9b9f4760f3 (このIDを非表示/違反報告)
リト - とても面白かったです!お話作るのが上手で尊敬してます。無理をせず更新頑張ってください。いつでも待ってます。 (2022年2月25日 2時) (レス) @page29 id: 2df230b8f3 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:おかか | 作成日時:2022年1月23日 14時

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