嫌よ嫌よも嫌のうち（青） (ページ8)

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7. ページ8

「……どっか寄るとこありますか」
『無い』

助かったといえばまあ、助かった。
誰もしないような呼び方を急にしてきたこと、明らかにご飯に行くような発言。
渡辺さんが起きたタイミングの会話もあって、何か言われるのではないかと身構えていたけどとんだ自意識過剰だったらしい。

……まあ、いつものごとく態度は悪い。

『あのさ、』
「っ、はい！」
『……や、何その反応』
「何でもない、です」

下手な嘘だったよな、うん、ため息つきましたもんね今。

『……俺も何もない』

ため息ついたままで、良かったのに。
そんな小さな声でそんなこと言われたら、調子だって狂う。
「どうしたんですか」と聞けるような仲でもないはず、……マネージャーなのにおかしな話だ。

「……着いたら起こします」
『ん、』

最低なことを言おう。
私は多分、いや絶対、渡辺さんのことが人として嫌いだ。
デリカシーなんてまるでない、5歳で時が止まっている。

心臓が、変な感じがした。
まだ目黒さんの悪巧み、……かは定かではないけど、彼の残したものに心臓をざわつかせているだけなのか。

渡辺さんを送るまでの道、ぽつりぽつりと灯っている街灯がやけに寂しかった。

「渡辺さん、着きましたよ」
『……普通着く直前にさあ、起こさない？』
「……すみませんでした」

寝起きの開口一番むかつくな、とは思ったけど少し安心した。
うん、渡辺さんはこうだ。
ずっと私に文句を言って、でかい態度でいてくれたらいい、……のかな。
うん、少なくともさっきみたいな渡辺さんでいられるよりまし。

＂『……俺も何もない』＂

あんな渡辺さんでいられたら私は多分、彼と喧嘩することさえままならない。

『じゃあ、』
「はい、お疲れ様でした」
『……』
「……帰らないんですか？」

動く気配がないから、後ろを振り向いただけだった。

「っ、……あの、渡辺、さん？」
『あんま調子乗りすぎんな、……お願い』

後ろから掴まれた腕に、不思議と痛いとは思えなかった。
驚きが勝ってしまう、こんなの。

それに、だって。

「え、っと」
『……ん、じゃあ』

それだけ言って車を出た彼に、『調子に乗るな』と普通に怒られたんだと思った。というかそれが良かった。

『お願い』と思ってる顔で、『お願い』と言われるなんて。
お願いだから、私の調子を返してくれ。