7日目 ページ16
なんとか今日中にざわくんとの打ち合わせを終わらせ家に帰るも着いた頃には日を跨いでいた。
玄関を開けると真っ暗で、何時もだったらこの音を聞いて飛んでくるAも今日はいない。
Aを傷付けたんだから仕方ないと分かっているのに、それでも求めてしまう俺はどうしようもなくワガママだ。
リビングの扉を開けると、そこにはぽつんとバジュラモジュラがダイニングの椅子に座るのみで、俺の目的の彼女の姿は見えない。
そっと寝室へ行くと、真っ暗な部屋にカーテンだけは開いており月の光だけが部屋に差し込んでいる。
いつもは無造作に置かれた掛け布団が、今はベッドの上でお団子のように丸くなっている。
そっと団子に寄り添うようにベッドに腰掛け、優しくその団子に触れる。
…反応はない。
「A、ただいま」
『…………』
「今朝、ごめん、な」
『…………』
「強く言いすぎた」
『…………』
「明日はさ、祭り行こう。一緒に」
すぅっと団子が少しだけ大きくなった。
ゆっくりと息を呑む様に。
「美味いもん食って、花火見よう」
『……てっちゃん、』
「…ん？」
『お仕事、だから、無理しなくていいん、だよ？』
「無理はしてない」
『でも、』
「大丈夫、仕事ちゃんと今日、終わらせてきたから」
『……ほんと？』
「本当。嘘なんかついたって、なんもいいことないっしょ？」
『……』
「だからさ、一緒に祭り行って、さ、仲直りしよう」
そう伝えると、布団がもぞもぞと動きを、ぱっちりとした2つの目が少しだけこちらを覗いた。
「…仲直り、せん？」
『……………する』
それだけ返事すると、今度は少しの隙間から小さな手が伸びてきた。
『仲直り、のあくしゅ』
「ん」
その手をギュッと握り、改めてその温かさを感じる。
「祭り、楽しみだな」
『うん、たのしみ』
『てっちゃん、』
もぞもぞと今度は両腕を出すと俺の方にその2本の細い腕を伸ばした。
『いっしょねよ』
「……どうしたの、珍しい」
『…仲直り、したから。今日だけ』
その両腕に誘われるがまま布団に潜り込み、そっとその身体を包み込む。
優しい匂いがまた、俺を落ち着かせた。
明日は楽しい一日になるように。
そう願っていたのは、俺だけ、だった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 137人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
えみ - 話が美し過ぎた… (2020年7月20日 3時) (
レス) id: 4b46f7439f (このIDを非表示/違反報告)
ヨウ(プロフ) - *ameto*さん» ありがとうございます！曲とともに見て頂けて嬉しいです。イメージ通りのお話になっていたでしょうか？是非また他のお話も見て下さると嬉しいです！ありがとうございました！ (2019年9月6日 0時) (レス) id: 523a836345 (このIDを非表示/違反報告)
ヨウ(プロフ) - Mrs.ぱんぷきんさん» ありがとうございます！今回は今までの橙さんとは違った雰囲気のお話だったので、不安でしたがそう言って貰えて嬉しいです！でもやっぱりラブラブなお話が書きたくなるので、また次の橙さんに期待していて下さい！ (2019年9月6日 0時) (レス) id: 523a836345 (このIDを非表示/違反報告)
*ameto*(プロフ) - 完結おめでとうございます。こうなるとわかっていても避けられない、2人の運命にうるっと来ました…。神曲を教えてくださって、こんなに素晴らしい作品を読ませていただいて、本当にありがとうございました！ (2019年9月3日 0時) (レス) id: 7b77494f9e (このIDを非表示/違反報告)
Mrs.ぱんぷきん(プロフ) - 完結おめでとうございます！執筆お疲れ様でした！毎度のことながら、素敵なお話をありがとうございます！ヨウさんの書く橙さんが大好きです！心がギュってなって、きゅんってなって。次回作も楽しみに待ってます！また橙さんをお願いします！！！ (2019年9月2日 18時) (レス) id: 318cc8d8b4 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ヨウ
| 作成日時：2019年8月27日 11時
