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取り敢えず、食べれそうなものだけ食べな、と言われスープだけ口に運び薬を飲む。
残った食事はツリメが持っていこうとした。



『外、出れないって言われた』


ツリメがピタリと止まった。
こちらを振り向くツリメと目が合って、どうしたらいいか分からなくて取り敢えず、笑みを貼り付けておいた。


「そっ…か…」


それだけ言うとツリメは部屋を出ていった。




午後も特にすることなんてなくて、いつもと変わらずベッドの上から窓の外を見つめる。
またコンコン、と扉を叩かれて返事をすると、またツリメだった。
その手には、車椅子。


「俺が先生に交渉してきた。中庭なら良いって」


そう言ってふわっと笑ってくれる。
驚いて固まっていると私に手を差し伸べてくれた。






ゴロゴロゴロゴロ
車椅子が転がる音が廊下に響く。
久しぶりのエレベーターに乗り、いざ下の階の中庭へ。
中庭と病棟を繋ぐ扉からは、外の光が漏れていて予想以上に眩しい。
なんだ、天気予報当たってるじゃん。






久しぶりに出た外の世界は、すごく気持ち良かった。
風が頬を掠めていき、遠くからは車のエンジン音が聞こえる。
時計の音しかしない私の部屋とは大違いだ。




「寒くない?」
『思ってたより寒い。でも、平気』


ゆっくりと中庭を一周して近くのベンチに1度止めてもらう。
降りることは出来ないけど、あの窓から見る外とは違って、それだけでも心が踊る。





『もっともっと、外の世界見たいな…』


その私の声に、ツリメはこちらを見ないでゆっくりと口を開いた。


「見れるよ、きっと」









『ねぇ、ツリメ。私の事、名前で呼んでいいよ』


ここに来て初めて目が合った。
ツリメは、すごいびっくりした顔をしてたけど、すぐに嬉しそうに笑った。



「じゃあ、俺の事もツリメじゃなくて名前で呼んで欲しいな」









『呼んであげるね、私が、外の世界に出れるようになったら』




ツリメが目を見開くのが見える。
目の奥が、ゆらゆら揺れるのがわかった。




「………うん、待ってるね」





ごめんなさい。
お互い知ってるのに。
外の世界に、出ることがないことも、
私がツリメの名前を呼ぶことがないことも。






それでも、貴方は何も言わず、綺麗に笑ってくれた。

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ヨウ(プロフ) - ななみさん» そう言っていただけて良かったですー!また続編の方にも遊びに来ていただけると嬉しいです! (2019年6月25日 0時) (レス) id: 523a836345 (このIDを非表示/違反報告)
ななみ(プロフ) - キュンキュンしちゃいました〜!すっごく読みやすい文章で大好きです!ありがとうございます! (2019年6月20日 22時) (レス) id: d77610da69 (このIDを非表示/違反報告)
ヨウ(プロフ) - なぁさん» いつもありがとうございます!中村先輩、まだキャラがブレブレで申し訳ないです…続編頑張りますね! (2019年6月20日 21時) (レス) id: 523a836345 (このIDを非表示/違反報告)
ヨウ(プロフ) - ななみさん» ありがとうございます!寛太先生続編書かせていただきました!期待に添えたものではなかったら申し訳ありません…また遊びに来ていただけると嬉しいです! (2019年6月20日 21時) (レス) id: 523a836345 (このIDを非表示/違反報告)
ヨウ(プロフ) - Mrs.ぱんぷきんさん» リクエストにお答え出来るようなお話書けるか分かりませんが…はたらくおにいさん。の橙くんはツンツンキャラが多かったので頑張ってみますね! (2019年6月20日 21時) (レス) id: 523a836345 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ヨウ | 作成日時:2019年4月21日 1時

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