はたらくおにいさん。

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ツリメが部屋から出てったあとは、やることも無くてぼーっとテレビを付けて見てた。

と言っても、見てると言うよりただ流してるだけ。
テレビの中の名前も知らない芸能人が笑う声が響く。
毎日テレビの中では全く違う日常が流れているのに、私のいるこの部屋だけは、いつも時間が止まってる。
時計なんて、ただのお飾りだ。





コンコン、と扉が叩かれる音がして、返事をする。





入ってきたのは私の担当医。
ぞろぞろとドラマのようにたくさんの医者と看護師を連れて来た。


「おはよう。調子はどうかな？」
『…まぁ、それなりに』
「はは、そうか」


医者は乾いた笑い声を上げるとスっと私を見た。
この目が、この世でいちばん嫌いだ。


「この間の検査の結果なんだけど…んんー、まぁ、変わらず、かな」


ああ、もう言葉濁さず言って欲しい。
変わらないなんて嘘。
私が1番知ってるもの。


『そう、ですか…』
「薬は変わらずこのまま飲み続けてもらって、検査も引き続きという感じかな？」


そう言うと、後ろに控えてた医者達が一斉にカルテをガリガリと取り始めた。


『……治療は特に変えなくても大丈夫なんですか？』
「んー、そうだね。もう少し、様子を見ようか」


ニッコリ笑うけど、その目元が笑っていないように感じる。
それじゃあまた、と言って、また部屋を出てこうとする医者の背中に問いかける。


『先生、私、外出したいんです』


振り返った先生の目線と、私の目線が交わる。
お互いじっと見つめあって口を開かない。


「………残念だけど、今は難しいかな」


そう言って、治療頑張ったら大丈夫だよ、なんて、根拠の無いセリフを置いて部屋を出ていく。


今は難しい。
今は難しい。
今は難しい。


ずっとそう言われて来た。



大丈夫な未来なんて、来たことないのに。








ダラリと布団に寝転がって窓の外を見た。
分厚い黒い雲が、向こうから迫ってきてるのが見える。
今日の天気予報、外れた。









「Aちゃん、食欲ないの？」


目の前には一切手をつけてない食事。
配膳しに来た職員さんが声を掛けてくれた。


『うん…』
「あらまぁ、先生呼んでくる？」
『ううん、へーき』


そう言ってまたぽすんと寝転がった。
暫くするとまたガラリと部屋のドアが開く音がした。



「Aさん、食欲ないって聞いたけど大丈夫？」
『ツリメ….』

ぼーっとした目で見つめると予想以上に心配されてしまった。


「本当平気？」
『うん』

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