あたため過ぎにご注意ください（青)

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「なぁなぁ、Aちゃん？

ヤスんち来るの、嫌がったんやって？」

ヤスがまじめに凹んどったで？

なんて、さっきまでのフニャフニャ笑顔から一変して、少し意地悪な顔で笑う大倉さん。

本当に、アイドルってやつは、表情の使い分けがお見事ですね。

「ーー別に、嫌がったわけではないですけど…」

「見たくないもんまで見えてくるから、嫌やったんやろ？」

見透かしたみたいな視線の中に、ほんのり混じる優しさ。

この人、きっと“お兄ちゃん”な人だな、と思った。

「大倉さんって、長男でしょ？」

「急やな〜そうやけど。
お兄ちゃんの優しさ、滲み出とった？」

茶化すように言うけど、本当に滲み出てますよ。

「大倉さんって、チャラいけど真面目っていうか…

とりあえず、しょーたの事、大好きですよね？」

あてしも真似して意地悪な笑顔を作ってみたけど、なんだか頬が引きつった。

やっぱりアイドル様ほど上手く顔面の筋肉を動かせないようだ。

「ーーほんま、Aちゃん、おもろいなぁ。」

豪快に口を開けて笑うこの人に惹かれるファンの方たちの気持ちが、分からなくもない。

なんて呑気な事を思っていたら、

「ーーやっぱり、まだ受け入れきれん部分があるっちゅうことやんな？」

急に真顔で核心を突いてくるこの鋭さ。

この人って、周りがよく見えている賢い人なんだろうな。


「しょーたの事で、受け入れられない事なんて、ないです。

ーーただ、まだ上手に受け止められていない事はたくさんありますけど…」

つまらない誤魔化しや言い訳はやめておこう。

何故だか素直にそう思えた。

「ややこしいなぁ。」

呆れたみたいに少し冷たく言う癖に、ポンポンと頭を叩くその手のひらは、しょーたと同じくらい優しいから、つい漏れ出てしまう弱音。

「皆さんの彼女になる方たちって、きっとメンタル丈夫な人たちなんでしょうね。」

あたしみたいに豆腐メンタルじゃないことは間違いない。

「彼女に安心感を与えてあげられるかどうかなんて、男の力量やろ？
問題なんはAちゃんのメンタルやなくて、ヤスの力不足っちゅー事。

ーーなぁ、ヤス？」

「ーーえっ…」

玄関へと繋がるドアに向かって呼びかけた声に応えるように、静かに開いたそのドアから、しょーたの哀しげな顔が見えた。


食えない男。


でもそこに悪意がない事はわかっているから、尚のことタチが悪い。

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