コトノハ（∞）

・・・・・・ ページ7

「お疲れさん。」



改札から出ると、柱にもたれ掛かりながら少しぎこちない手つきでスマホを操る彼が見えて、

こうやって外で会うスーツ姿に、今更ながらときめいてしまう。


すぐに視線を持ち上げあたしに気付いた彼に、少し早足で歩み寄れば、

力の抜けた柔らかい表情と声が迎えてくれて、


「、、っ、お疲れさま。

今日は、仕事早く終わったんだ？」


それだけで、瞬間的に溢れ出した感情に少し苦しくなったのに、


「こないだの埋め合わせするて約束しとったやろ？

ーーどうした？疲れとるんか？」


眉毛を下げてあたしを覗き込む顔が、優しい声が、ますます苦しくさせるのだ。


「ううん、新幹線で爆睡してたから、ちょっと頭がぼーっとしてるだけ。」


小さな嘘を見抜かないでね。



さ、行こ？

と、あの日のように彼の腕にそっと手を添えてみた。


今日も振り解かれない事を祈って。



それなのに…



「お前、手袋くらいしてこいて。
今日めっちゃ寒いねんで？」


あたしの手を見て溜息混じりに言うから、思わずそっと腕から離した手。


「信五だって、手袋してないくせに…」


寂しさを誤魔化すように呟けば、


「俺は平気やからええねん。

ホレ、こんな冷やっこい手ぇしといて。」


そう言って少し乱暴に掴まれた手は、

そのまま彼のコートのポケットの中に入れられた。







ーーねぇ…


もう、今日は何なの？


わざと？


なんか、いつもと違うってば。



彼らしからぬ甘さに、頭がクラクラする…









そのままズンズンと歩き出した彼に引っぱられるように少し早足で隣を歩きながら、

見上げた横顔はいつもより赤みを帯びていて、

鼻を啜るフリをして口元に当てられたもう片方の手は、なかなか元の位置に戻らなかった。







自分でも、もう止められないくらい感情が溢れ出して、


訳もなく、泣きたくなった。









「ーー大好き…」



勝手に飛び出した言葉は、

恥ずかしい程ストレートで、

いい歳してこんな道の往来で言う言葉じゃなくて、


だけど、

この言葉以上に伝えたいことが思い当たらなかった。






あたしの言葉に驚いたようにこっちを見た後、

また目を逸らして、


「、、阿呆…」


小さく呟きながら、

ポケットの中で捕まえられているあたしの手を強く握り直してくれた。









ーーきっとこの手の感触を、

あたしは一生忘れないと思う。

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