コトノハ（∞）

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勤め先の美容室のお客様だった章ちゃんから告白されたのは、２年前。

個人的に食事に行くようになって半年程経った頃だった。








「おれ、Aちゃんのこと好きやねん。」


行きつけのお店の個室で、食事の終わる絶妙なタイミングで、重過ぎず軽過ぎずな口調で切り出す所に、

彼の経験値を感じた。


だけど、

いつも通りの、あざとさを感じるくらい真っ直ぐな視線の中に、

ほんの少し混じる緊張感と、色のついた熱量。


章ちゃんの言葉が、揶揄いや冗談ではないことは、ちゃんと伝わってきた。





テーブルの向こうから伸びてきた手が、そっとあたしの指先に触れるのと同時に、


「おれと、付き合ってください。」


章ちゃんは丁寧に言葉を紡いだ。




ーー振り解かれないって自信満々だなぁ、、



なんてこっそり心の中で毒づきながらも、そこはやっぱり女子ですから、

その手の甲に視線を逸らしたまま、


「ーーうん、、」


小さく、短く、可愛らしく、

最低限の返事をした。



ーー余計なものは吐き出さないように。






それなのに、目の前の章ちゃんは驚いたように眉を上げて、ポカンとだらしなく開いた可愛いお口から、


「ーー絶対、アカンて言われるんや思ってた…」


なんて謙虚な言葉を零した。


それから、フニャン、と音を立てるように柔らかく優しく笑って、

指先にそっと触れていた手のひらが、あたしの手を全部覆い隠すように重なってきた。



「ーーゆっくりで、ええから…

おれのこと、好きになってな？」



また真っ直ぐにあたしの目を見て、これまたあざとく、少し音を下げて掠れた声で囁いた章ちゃんは、


やっぱり思っていた通りに狡くて、

オトナだった。







「ーー安田さんも、ね。」



それが思いのほか悔しくて、何故か少し苦しくて。




今度は素直に真っ直ぐ彼を見据えて、


はっきりと、短く、可愛げなく、

最低限の返事をした。



ーーあたしの気持ちが伝わるように。









見守りたいと思っていた。


この人が、

きっとずっとその胸の中で誰にも知らせずに温めてきたであろう想いに何故だか心惹かれて、

その行方を、行く末を、見守りたいと。


どうせならば一番近いところで。


ーーそれはきっと、単なる好奇心だった。









章ちゃんはそれもお見通しだったのかな？









だけど、


好奇心の後ろにこっそり隠れんぼしていたこんな厄介な恋心は


きっと見落としていたんだろうな。

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