眠れない夜に必要なもの（∞）

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「ただいま。」


今度こそ、彼の顔を見て言うと、


「ーーおん、おかえり。」


優しく微笑んでそう言ってくれたけれど、

口元が少し不満そうに尖っているように見えるのは、気のせいだろうか。




「なんか、いつもと逆だね？」


ふふっ、と思わず漏れた笑みを隠さずに言うと、


「、、チーには敵わへんな…」


やっぱり少し拗ねたように、

だけど日頃のあたしの気持ちも伝わったのだろうか、

心なしか反省したような顔をする彼。


そんな様子がとんでもなく愛おしく感じるのは、しばらく離れて過ごしたせいなのか、

マスクに邪魔されていない彼の顔を、ついつい過剰に見つめてしまう。


そして、彼がそんなあたしの視線を受け止めてくれるから、

幸せとか、嬉しいとか、そういうフワフワした気持ちが、心にどんどん広がっていく。



「そんなニヤニヤしながらジロジロ見るなて。

いつまで玄関でつったっとんねん、ほら、行くで。」


表情筋ユルユルなあたしの熱視線に耐えかねた彼が、くるりと背を向けて部屋の奥へと進んで行くから、

慌てて靴を脱いで追いかけた。







リビングに入ると、いつも通りの光景、落ち着く匂い(少しだけ男臭くなっている気もするけど…)。


それに安心すると同時に、少しだけ物足りなさを感じるあたしは我儘だろうか。


「ーー嫌味なくらい、片付いてる…

普通、彼女が不在になると、家って荒れるものじゃないの？」


と綺麗好きな彼についつい理不尽な文句を言ってしまう。


(だってさ、あたしの存在意義…ってなるじゃない、、)



それなのに…


「ーー阿呆。

荒れた部屋見たら、病み上がりのくせに張り切って掃除し始めようとするヤツがおるからやろ。」


ソファーに腰を下ろした彼は、あたしを見上げて溜息混じりにそんなことを言う。


その言葉も、視線も、いつもより甘いような気がするのは、あたしの思い過ごしだろうか。



だけど彼は、あたしの戸惑いなどお構いなしに、


「今日は何もせんでええから、ゆっくりしときや。」


恋人と通り越してお母さんのような優しさまで与えてくれるから、

もうフワフワムズムズと落ち着かない。


誤魔化すように、


「っ、ありがとう。

あ、何時に家出るの？
お昼食べてから行くよね？」


と冷蔵庫を確認しに行こうとすると、



「ええから、ちょお座れ。」



真剣な声に呼び止められた。

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