のぞむラディッシュ ページ2
「これは、知り合いの知り合いから相談された話なんやけど、」
特徴的な八の字眉毛を眉間に寄せ、ニヤニヤしながら話し出す彼、桐山照史が隣人になったのはほんの数ヶ月前のことだった。
このマンションに新たな入居者が訪れたのは1年ぶりらしい。そう、大家さんが浮き足立った様子で話していたのを、聞いたことがある。いつだったか、いつもの厚化粧が倍厚い日があり、婚約でもするのかと思ったが(あんなコントのような化粧で婚約などするわけないか)あれは桐山さんの受け入れの日だったのかもしれない。
「今日は宴やな!六甲おろしでええか?うちの十八番やねん!」
そんなことも言っていた気がする。
ちなみに彼女は、めでたかろうがそうじゃなかろうが、いつだって六甲おろしをチョイスする。
そういうわけで、私の隣の部屋に新たに入居者が増えた。
"初めまして、先日引っ越してきました。桐山照史と言います!隣なので、何かとご迷惑をおかけするかもしれませんがよろしくお願いします。何かあったら支え合いましょうね!"
変な言い回しをするやつだな。そんな第一印象だった。
迷惑をおかけするかもしれませんがお願いしますってなんだ。迷惑も面倒事も来ればふっかけて来ないで欲しい。私の平凡な日々が損なわれるではないか。お前は隣人に迷惑をかける気満々でいるのか?
なんて言えず、桐山さんとは比べものにならないくらい、ひきつった笑顔で「こちらこそ」と答えた。
握手を求めてきたので、それにも一応対応した。
私と桐山さんはそれなりの仲にはなったものの、かといってそれ以上の関わりはなかった。彼が私の気持ちを察してくれたのだろうか。空間察知能力が高そうだから、きっとそうだろう。
正直、もっとしつこくまとわりついて来ると思った。ズカズカと人のテリトリーに入って来るのだと思った。しかし、彼も明るいばかりではないらしい。なんなら私よりも、人との心の距離感に敏感そうであった。
そんな感じで、私と桐山さんの関係はとりあえず"ただの隣人"という所に落ち着いた。これでいいのだ。ご近所づきあいなんて、一歩距離を置いてい方がいい。彼と私は頭のいい距離感でいる。
なんて、最初は思っていた。
私は忘れていたのだ。彼が言った言葉を。そして、今まで私が何と向き合って、何から目を逸らしたのかを。
何から逃げてここまで来たのかを。
「Aちゃん、ちょっと、ええかな」
彼が私の部屋に入って話がしたいと言い出した。
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作者名:ぷらまい | 作成日時:2020年5月24日 1時