結婚前夜【緑谷出久】 (ページ7)

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店を出て事務所へ戻る途中、丁度向かいのファストフード店から出てきた後輩と顔を合わせた。

「あれ、今日は3人で食べたんですか？」

後輩であるプロヒーローが、爽やかな笑みを浮かべて訊ねてきた。

僕より2つ歳下で、かなり気配りの出来る人物だ。

彼が真衣ちゃんに好意を寄せているーーという噂を聞いたことがある。

その噂話は僕と彼女が付き合ってから耳にしたので、特に気に留めていなかった。

だけどもし、その噂を真衣ちゃんと付き合う前に聞いていたら、僕の精神は無駄に疲弊していただろう。

彼の容姿はモデルと言っても通用するもので、おまけに性格も良く、当然女性陣からの人気も高かった。

そんな男を恋敵として戦うとなると、僕の戦力では心許ない。

まあ所詮噂なので、本当のところは分からないのだが。

「恋に関する話を色々と聞いてたんです」

羽瀬川さんが言った。

「あとはデクさんが真衣にプロポーズしたんで、その話も少し」

「えっ、そうなんですか。
おめでとうございます」

彼は笑顔を浮かべて、ぺこりと頭を下げた。

笑みが少し寂しそうに見えたのは、僕の錯覚だろうか。

変な噂話を思い出してしまったから、そういう風に見えたのだと思うことにした。

僕と真衣ちゃんは、礼を言って頭を下げる。

「挙式はいつなんですか？」

「いやいや、まだ早いですよ。
プロポーズしたのは数日前なんですから」

羽瀬川さんが、僕たちの代わりに答える。

「女性の中には、ジューン・ブライドに拘る人もいますよね。
陽冨さんは、そういうのあるんですか？」

「真衣は拘らないみたいです。
挙式の場所もどこでも良いみたいなんですけど、私はハワイを推してます」

それから事務所に戻るまでの間、僕たちに関する質問が来る度に、羽瀬川さんが答え続ける。

まるで親戚の世話焼きおばさんのような羽瀬川さんを見て、僕と真衣ちゃんは顔を合わせて笑ってしまった。

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バスを降りると、小走りでマンションの一室に向かう。

降水確率20パーセントの天気予報を信じたら、このザマだ。

歩道の水溜りに思いっきり足を突っ込み、跳ね返った雨水がジーパンの裾を濡らしたけれど、もうどうでもよかった。

3分ほど走り続けて、轟くんの住むマンションに着く。