結婚前夜【緑谷出久】 (ページ5)

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午前の業務が終わり、昼食の時間となる。

僕は財布をポケットに入れ、真衣ちゃんの元に足を運んだ。

彼女の隣で、羽瀬川さんが財布を持って立っていた。

「お昼ご一緒してもいいですか？」

羽瀬川さんが訊ねてくる。

「うん、もちろん」

「結婚に関する話を色々聞きたいと思って」

「別にいいけど、そんな面白い話じゃないと思うよ」

「今の私は、恋愛に関する全ての話が楽しく聞ける時期なんです。
で、お昼はどこで食べますか？」

「裏の定食屋さんなんてどう？」

僕の提案に、2人は頷いた。

事務所の真裏にある定食屋さんは、値段も手頃で味も良い。

僕はカツ丼を、真衣ちゃんは焼き魚定食を、羽瀬川さんは生姜焼き定食を注文した。

「それにしても、デク。
なかなか粋なプロポーズするじゃないですか」

羽瀬川さんは、少しにやけた顔で言う。

「あっ、プロポーズの言葉は言ってないよ。
どこで言われたか、状況だけ教えたの。
プロポーズされたこと自体、依子にしか話してない」

真衣ちゃんが慌てて補足する。

「そんなに粋かな？」

僕は疑問に思って訊ねる。

「とても素敵だと思いますよ」

羽瀬川さんはキラキラした瞳で答えてくれた。

僕は笑いながら礼を言う。

「あー、素敵なプロポーズされたいです。
最近の若者は草食系だから」

「僕より羽瀬川さんの方が若いんだから、そんなこと言わないの」

「でも、4歳しか違わないですよ」

「4歳差は結構大きいよ。
34歳と30歳なら、たった4歳差と思えるかもしれないけど。
でも30歳と26歳だと、世代的に大きな隔たりがあるように思わない？」

「うーん。
そう言われてみれば、そうかもしれないですね」

そんな話をしていると、注文した品が運ばれて来た。

さしあたり、僕たちは食べることに集中すり。

いつも通り、すこぶる美味なカツ丼だ。

3分の2ほど食べた時、羽瀬川さんが話題に立ち戻った。

「デク、ぜひ男心について教えて頂きたいのですが・・・」

「僕なんかで役に立てば。
彼氏さんのこと？」

「まだ彼氏じゃないですよ」

羽瀬川さんは照れ笑いを浮かべ、顔の前で手を振る。

「ただその人、誰にでも優しいタイプだから、良く分からないところもあるんです」

「相手って、インゲニウムの事務所の人だったよね？
今度彼に頼んで、気になる人がいないか探ってみようか」