結婚前夜【緑谷出久】 (ページ18)

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18夜ページ18

「ハピネス・ロードを歩きたい」

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酔いを醒ますには丁度良い距離と気温だ。

ハピネス・ロードに着いた時には、僕の頭も大分冴えを取り戻していた。

遊歩道に植えられている木々には満開の桜が咲いていて、淡いブルーやイエローのライトが、木々を幻想的に照らしている。

1年の中で、ここが最も綺麗になる季節だ。

僕たちは手を繋いだまま、遊歩道の中へと入って行く。

「ねえ。
此処を初めて2人で歩いた時のこと、憶えてる？」

「勿論。
だって、僕から誘ったんだし」

「まだ付き合う前だった」

「うん。
僕はずっと真衣ちゃんのことが好きで、付き合いたいと思ってた。
でも勇気が出なくて、なかなか告白できなくて。
だから何とかその1歩を踏み出すために、ここにある噂を信じて、この通りの先にあるレストランに真衣ちゃんを誘ったんだ。
もっともその時は〝好きな人と手を繋いで歩かなければならない〟っていう制約があることを知らなかったんだけどね」

「そうだったんだ。
初めて知った」

「初めて話したからね」

「もっと、私の知らない話を聞きたい」

「付き合う前の話ってこと？」

「付き合う前の事とか、付き合っている時の事とか、出久くんが私をどう思っているのかとか。
もっともっと知りたい」

「うん。
恥ずかしくて話せない事以外は、何でも話すよ」

「恥ずかしくて話せない事って何？」

「それは恥ずかしいから話せないよ」

そんな会話をしながら、ゆっくりと歩みを進める。

「少し座って話しましょう」

真衣ちゃんが僕の手を引っ張って、ベンチに座る。

珍しく、周りには僕ら以外に人がいなかった。

「10年、20年・・・50年後の2人を、想像できる？」

「・・・できるよ。
10年、20年、50年後の2人を、僕は想像できる」

「出久くんの隣に私はいる？」

「いるよ」

「私はどんな顔してる？」

「10年後の真衣ちゃんは、僕の隣で笑ってる。
20年後の真衣ちゃんは、僕の横でちょっと怒った顔をしてる。
50年後の真衣ちゃんは、僕と並んで縁側でお茶をすすってる」

彼女はクスクスと笑った。

「とっても素敵。
でも、20年後の私は何で怒ってたの？」

「それは、その時になってみないと分からない。
でも50年後も一緒にいるんだから、そんなに酷いことじゃないよ」