【文スト】太宰治の奮闘記録

恋を知る ページ10

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四度程続いた無機質な呼出音が、漸く途切れた


『―――もしもし、太宰さん？』

「うん、私だよ」


声を聞くだけで逸る気持ちを抑えて、平静を装う



「着信があっけど、如何したの？」

『えっと…』

「ああ、私からの電話が待ちきれなくて先に掛けちゃったのだね、ふふ、全く可愛＿＿ 」

『違います』

「うん、だよね」


勿論、本気でそんな事思っちゃいない

が、彼女から掛かってきた電話の理由が、本気で判らない


「――で、如何したの？」

『いやその…大した事無いんですけど、只、太宰さん、帰りぼーっとしてたような気がしたので』

「私が？」



確かに、色々と考え込んでぼーっとしていたような気がしなくもないが


真逆、其れで？

たった其れだけの理由で、電話を？



「抱きしめてもいい？」

『デジャブですか、枕でも抱きしめてて下さい』

「判ったそうする」


如何しよう、普通に嬉しいんだけど


今さっき迄明日地球が滅びそうな事を考え込んでいたっていうのに

彼女の言葉一つで、簡単に如何でもよくなる


成程、恋ってこんな感じなんだ



「つまりは、心配してくれたんだね？」

『ち、違います！只、私、何か気分を害す事しちゃったかなって、思って…その…』

「君って本当に可愛いよね」

『そんな話今してません！』


キーンと耳に響く声量だが、全然苦じゃない


揺れも靡きもしないあのAが、私の居ない所で、私の事を考えていたって思うと

もう、なんていうか―――…



「――矢っ張り今直ぐ抱きしめたいから会いに行ってもいい？」

『通報しますよ』

「其れは困る」


いつものテンポで、いつものキャッチボール

今はこれでいい


彼女が私を厭がらない限り、私も焦る事ない

この調子で、今迄通り、じりじりと距離を詰めていったらいいじゃないか


『太宰さん？私本当に何かしませんでした？』

「いいや、大丈夫だよ」

『そう、ですか？本当に？』

「本当本当、敢えて云うなら、今迄通り何も、ついでに抵抗もしないでほしいのだけど」

『身の危険を感じたら抵抗はします』


まあ、そう上手くはいかないけど


いつか、云い訳も口実も無しに彼女に触れられる日が来れば万々歳だ


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