【文スト】太宰治の奮闘記録

好条件屋敷 ページ7

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『―――だ、太宰さんそこに居ますか！？』

「居るよー」

『本当に！？』

「嘘ならこの声はお化けだね」

『だだだ太宰さん！！』


云うと、がしっと勢い良く腕にしがみついてくる

否しがみつくってよりは、掴み掛るって表現の方が近しいか


Aとお化け屋敷に入場して二分、ずっとこの調子で離れたりくっついたりしている


「ねえA」

『なんですか！お化けですか！何処ですか！』

「そうじゃなくて、手、繋ぐ？」

『………繋ぎません』


頑なに頷かないA

少なくとも、照れてる訳ではないのは確かだ


「如何してさ、怖いんだろう？」

『……だって、そんなの、太宰さんの思うつぼじゃないですか』



意地っ張りっていうか、強情っていうか

まあ、そんな所も矢っ張り可愛いのだけど


『でも……』

「でも？」

『歩く速度を合わせてくれてるのは、一寸だけ助かります…』

「………」


無意識だった

単にAの隣を歩いていたいってだけの不純な無意識だが、真逆そんな風に捉えてくれていたとは


「偶々だよ」

『え』

「だからその内置いて行くかも」

『………』


たっぷりと十秒程悩んで、ちょんっと私の袖を掴んだAが


『て、手を、繋いでもいいですか……』


と、聞こえるか聞こえないかくらいの声量で云った


職業柄暗闇に慣れた目なので、彼女の其の如何ともし難いといった表情がよく見える

うん、可愛い


「いいよ、はい」



平静を装って左手を差し出すと、白く小さな右手が、ゆっくりと重ねられた


『は、離さないで下さいね、絶対ですからね』

「うん、頼まれても離さないけど、余り可愛い事ばかり云ってると襲うよ」

『お、襲っ！？』


自分で云っておいて、早速私の手から離れようとするAだが、勿論一度握った手を離す気は無い


渋々と私に引っ張られる彼女が、「お化けより怖いんですけど」と呟いた


左手から伝わる愛しい熱に満足し乍ら、全ての条件が私に味方したお化け屋敷に、こっそり感謝しておく


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