呪箱異譚 -弐-

玖拾肆：死生創術 ページ48

実side

一瞬。その一瞬が、長く感じた。





目の前に広がるのは呪霊の群れじゃない。あの桜が散る日本庭園だった。
枯山水の庭、大きな桜の木、その庭を突き抜けて縁側に上がり、和室に入る。
以前の俺が居た部屋だ。狭く、でも光の入る小さな部屋。

まるで今の俺を表しているようだ。

この部屋で出来ることは何だ？ただ座って庭を眺める？寝転がって目を瞑る？
いや、そんな停滞するようなことじゃない。もっと他に出来ることがあるだろ。例えば…

今まで開けなかった、居間に続く襖へと目を向ける。
この先はコトリバコの領域だった。此処を開けるということは、呪いを放つのと同じだ。
でも今は？今の俺なら、此処を開けられるんじゃないだろうか。
襖に手をかける。今まで触ったことの無かった金具の冷たさが手に沁みるのと同時に、襖の向こうから漏れる冷気が足を撫でた。


『"後悔はないか？"』


自分の心に問いかける。……答えは既に出ていた。
今まで拒絶していたこの先も、俺の世界の一部だ。俺の部屋だ。自分の部屋の何を恐れなきゃいけないんだ。

この隔たりを縛りとする。
群がる呪霊が押し寄せる中、手袋を外して右手の薬指に着いた指輪に手をかける。
一つの力でも少量の呪力で守れればそれでいい。
無数の瞳が見つめる中、指輪を抜いて外した。
もしその力でも倒せないものがあるのなら。
銀色の指輪を固く握り締める。
人ならざる力で敵を圧倒しろ。




『"死生創術(しせいそうじゅつ)"』

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