漆拾参：泥から這い上がる蓮華のように ページ27
実side
「"頑張ってるんだよね、実。負けちゃ駄目だよ？"」
『……』
何だ…？今、声が聞こえた気がした。
真っ暗で海の底のような重さがある空間の中で目を開く。光の一つも見えない其処は、まるで泥の中のようだった。
『五条先生…？』
吐き出した声はゴボリと泡になって消えていく。手は動く、足は動く、でもこの空間からの出口が見えない。
上下左右、全ての感覚が狂うような暗い空間から早く出ないといけない。そう本能が叫んでいた。
『っ…』
無我夢中で手足を動かし、上であろう方向に向かって泳いでみる。冷たく重い泥のような黒は、俺の身体を底に沈めようとするみたいに圧し掛かってきた。
『出口は何処だ…っ』
一刻も早く出ないといけない。外ではきっと皆が待ってるんだ、早く、外へ…っ
"此処に居ろよ"
声がした。後ろを振り返ると、そこには見覚えのある姿が立っていた。
短い黒髪、鋭い青灰色の瞳、口元に小さな傷のある長身の男性……
『親父…？』
小さい頃の記憶の中に居る、自分の父親がそこには居た。違う、アレは本人じゃない。何故かは分からないが、そう直感した。
"何処行くんだ、こっちに来いよ"
『…悪ぃ、そっちには行けない』
泡になって消える声が届いているのかは分からない。でも親父は顔を顰めて、この重い水の中をスタスタと歩いて俺の方に来た。
"そっちに行ってもお前が苦しいだけだろ"
腕を掴まれる。怒ったような、少し不安そうな表情を見つめると、ちょっとだけ目を伏せた。
『…分かってる』
此処から出ても、俺は"コトリバコの受肉体"として呪術界では扱われるんだろう。様々な呪いを食わされ、飲み込まされ、例え精神をおかしくしても止まることはない。
それでも、今の俺には仲間が居る。どんなに強い呪いに蝕まれたとしても、きっと仲間が助けてくれる。
"外に出たら、お前は化け物扱いだ。利用されて捨てられるだけだぞ"
分かってる。それを承知で此処に居るんだ。
『…行かせてくれ』
真っ直ぐ見返してやった。親父は面食らったように目を丸くしたけど、すぐに溜息を一つついて手を離してくれた。
"
そう言って親父は消えた。手元に残ったのは、矛のような短剣。
その刃を、目の前の暗闇に向かって振り下ろした。
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九龍-くーろん-(プロフ) - 日向さん» ありがとうございます！一気に読んで頂けるとは…！とても嬉しいです！更新頑張ります！ (2021年1月24日 21時) (
レス) id: 50fae09df6 (このIDを非表示/違反報告)
日向(プロフ) - 初めまして！主人公の設定や周囲との関係、ストーリーなどがとても面白くて1作目から一気に読んでしまいました！応援してます、更新頑張ってください！ (2021年1月24日 20時) (レス) id: 0ceab624dc (このIDを非表示/違反報告)
九龍-くーろん-(プロフ) - 南蛮モナカさん» ありがとうございます！とても嬉しいです…！今後とも主人公達の道を見守って頂けると嬉しいです！更新頑張ります！ (2021年1月23日 0時) (レス) id: 50fae09df6 (このIDを非表示/違反報告)
南蛮モナカ - 設定とかキャラ達の関係性？とか話の進み方とかすっごく好みです！更新がんばってください！ (2021年1月22日 23時) (レス) id: 4ea39a9195 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：九龍 -くーろん- | 作成日時：2021年1月21日 17時
