♡僕は最高のトランプだ ページ16
エースside
首を刎ねろ。それが僕が一番耳にする言葉だ。
「どうかお許しを!どうか!」
「お黙り!よくも私の顔に泥を塗っておいてそんな口が聞けたね!」
開かれる裁判はほぼ毎日だ。大抵は女王の機嫌を損ねて有罪となる。
庭に白い薔薇を植えた者、クロッケーのハリネズミを逃した者、タルトをつまみ食いした者…
些細な事でも女王の機嫌一つで罪の重さが変わる。僕はそんなやりとりを眺めながら手にした斧の柄をガツンッと床に叩きつけた。
この斧は僕専用の斧だ。ハートがあしらわれた巨大な刃はトランプどころか少女の首ですら容易く吹き飛ばせるほどの大きさがある。金色の取っ手をしっかりと握り罪人であるクラブの5を睨みつければ、たちまちソイツは顔を青くして黙り込んだ。
「首を刎ねよ!」
その一言が僕を動かす。簡単な話だ。ハートのトランプ兵に両腕を拘束されて突き出された罪人に斧を振り上げて、ギラリと光るその刃を叩き込むだけ。
振り上げた刃に映るのは罪人の最期の顔だ。青ざめた顔を映した刃を勢いよく振り下ろすと、ガチンッと床に刃がぶつかる音と共にバシャリと黒いインクが体中に飛び散る。嗚呼、またインク臭いなんてあのナルシストに言われるな…
「次だ!次の罪人を呼びな!」
高圧的な声と共にハートの兵士は慌ただしく動き出す。汚れた証言台や床を拭き、残骸を運び出す。僕が服の袖で顔に飛び散ったインクを拭くと、横からハートの3が僕にハンカチを差し出してきた。
「どうぞお使い下さいエース・ハート様。お召し物が汚れてしまいます」
『ありがとう
ハンカチで顔を拭けばそそくさとハンカチを回収してハートの3は下がっていく。さてと、次は誰が……
「今日もエース様は恐ろしい…」
「あぁ、"今度の"ハートの1は人の体まで与えられるほどの優秀なトランプ兵だからなぁ」
「なんでも全てにおいて一番優秀であるとか…」
『無駄口を叩く暇があるなら働きなよ。ほら、次』
「は、はいっ!ただいま!!」
本当に僕以外は使えない兵隊たちだ。さっさと罪人をよこさないと僕が現代に行けないだろ。
「エース」
不意に聞こえた声にすぐさま女王陛下の方を向く。その方は僕を見下ろしたまま、満足気に笑ってこう仰った。
「お前はジャック以上の働き者だね。期待しているよ」
『…!…はっ、女王陛下の仰せのままに』
嗚呼…やはり僕は"一番"の兵士なんだ!なんて幸福な事だろう!
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作者名:九龍 -くーろん- | 作成日時:2022年10月11日 21時