肆拾漆：いずれ死に逝く命ならば ページ48
伏黒side
聞いてはいけない一言が、ドアの隙間から零れた。
丁度部屋に帰ろうとしたところだ。それなのに、何故か虎杖の部屋が気になって、俺は虎杖の部屋の前で立ち止まっていた。
別にゲームしたいとかそう言うんじゃねぇ。だから何でドアの前に来たのかさえ、よく分からなかった。
「…分かった。でも、俺は絶対榎森を殺さないからな」
虎杖の声が聞こえた。小さくてもドア越しならよく聞こえる。いや、本当なら聞こえないんだろう。
無意識に、聴覚が研ぎ澄まされていた。
『………、ありがとな』
少し高い声が聞こえた。間違いない、榎森の声だ。
『その言葉だけで安心できる』
落ち着いた声の筈なのに、聞きたくないと思ってしまう。
『まぁ癪ではあるがな。宿儺に対抗する抑止力だなんて体のいい建前だろうし、上はあわよくば抑止力として俺を宿儺に殺させるつもりだろう。それは先生だって気づいてる。それでも抑止力として動かないと俺は即刻処刑だし、皮肉なことに俺を嫌う人間に俺は生かされてるんだって、嫌でも思っちまう。…めんどくせぇよな』
諦めた声。俺はギリッと歯を食いしばると、自分の部屋に戻った。ドアを閉める時大きな音が鳴ったのは、無意識に力が篭っていたからだろう。
「……何でだよ」
何で諦めてるんだ。お前はそれでいいのかよ。何で、何で。
多くの疑問が頭を支配する。それ以上に、
「(何で、先にアイツに言うんだよ…っ)」
何で俺じゃ駄目なんだ。何で俺に先に言わなかった。そんな気持ちが胸を支配していた。
おかしい話だ。俺は同じ境遇でも何でもないってのに、話し出すきっかけなんて何もないくせに、俺が一番最初がいいだなんて考えちまう。
胸が痛い。悔しい、悔しくて目頭が熱くなった。
「……くそっ…」
何だよ、この気持ちは。俺はどこかおかしくなったんじゃないか？
アイツのことが頭から離れない。虎杖と同じ姿をした、アイツのことが。
「嫉妬だなんて、最悪だろ…っ」
醜すぎる。心底自分が嫌になって、それ以上に虎杖が羨ましくて、悔しくて、らしくもなく涙が出た。
いずれ死んでいく命なら、少しぐらい。その命に俺を刻み付けてくれなんて、言えたらいいのにな。
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作者名：九龍 -くーろん- | 作成日時：2021年1月12日 16時
