肆拾壱:その果てに成るもの ページ42
実side
背中を突き破った刃が腹から顔を覗かせ、美味そうに血を啜る。口端から血を零しながら振り返る虎杖は、視線の先に映った伏黒の姿に驚きで目を見開いていた。
「ふ、伏黒…っ?」
伏黒は光を映さない虚ろな目で虎杖を見る。手に握り締めた刀は、さっき俺が釘崎の"簪"をくらって吹っ飛ばされた刀だ。
「何してんだよ伏黒!それ虎杖だぞ!?」
無駄だ釘崎。今のアイツに何言っても聞こえはしねぇよ。
『今のソイツは、俺の操り人形だ』
「…!」
クイッと指を動かせば、伏黒は勢い良く刀を引き抜く。プシャッと音を立てて血が噴き出すと、少しだけ俺の顔に真っ赤な雫がかかった。
『遊んでやれ』
一言、そう言うだけで伏黒は刀を手に虎杖に斬りかかる。肉体に刻まれた術式も操作できるが、今の体力と呪力じゃ無理だな…
『("撥"の乱発、加えてコトリバコの術式引き出した反動による呪力消費で、こちとら立つのも苦なんだよ…っ)』
瓦礫に背を預けて戦いの様子を見守る。俺との戦闘で満身創痍な今の虎杖には、剣による力押しだけでも通用するだろう。
「っ…!」
ミシィッ…と骨が軋む音がした。斬撃の合間に放たれた蹴りが虎杖の腕に命中したんだ。身を守る為に犠牲になった片腕がだらりと下に落ちる。今ので骨イカれたか。
『(そのまま畳み掛けろ)』
頭の中で指示を出すと、伏黒は攻撃の速度を更に速くした。防戦一方まで持ち込めば、あとは耐久戦に…
微かに聞こえる風を切る音。俺が振り返るより早く、反射的に伏黒が俺を引っ張る。
途端に俺の頭があった箇所に釘が刺さった。釘崎だ。釘崎が立ち上がりながら、近くに落ちていた釘を拾い上げていた。
「忘れてんじゃねーよ」
『…っは、怖…』
伏黒が反応してくれたお陰で何とか逃れられたが、今の当たってたら確実に死んだな。
『(呪力だ、もっと呪力があれば…っ)』
右手の薬指に光る銀色の指輪が目に入る。…コレを外したら、呪力の制限が無くなる。二人を圧倒できるかもしれない。
…指は自然と、銀色の輪に添えられていた。
「はい、そこまで」
ぽんと頭に手が乗る。指輪に手をかけたまま見上げれば、「やりすぎ」と口パクで告げる先生の姿があった。
308人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:九龍 -くーろん- | 作成日時:2021年1月12日 16時