検索窓
今日:3 hit、昨日:6 hit、合計:326,705 hit

拾伍:襖の向こうから聞こえる声 ページ16

「"榎森ってさ、映画とか見たことある?俺オススメの映画あるんだよ、一緒に見よーぜ!"」

『あぁ、別に構わねぇよ』

「"おい虎杖、あまり榎森困らせるなってさっき言ったろ"」

『別に困ってないさ』

「"え〜?でも別にいいって感じだぞ?伏黒ビビリすぎ!"」
「"なっ…、俺は別にビビッてねぇ!"」
「"あはは、二人共元気だねぇ〜?"」

『……ほんと、元気な奴らだな』

襖の向こうから聞こえる微かな声に、思わず笑みが溢れた。
桜の花弁が部屋の中に入ってくる。開け放たれた縁側のガラス戸がキラキラと輝き、枯山水の庭が美しい白を映し出す。

俺はずっとこの部屋に居る。昔からずっと、この部屋で生きて過ごしている。

『早く俺も、この襖の向こうに行きてぇよ』

目の前にある襖を撫でる。襖の向こうからは皆の声に混じって、異質で不気味な声がずっと鳴り響いていた。

此処は生得領域だ。俺の居る和室が俺の領域で、この襖の向こうがコトリバコの領域になっている。
俺の肉体はコトリバコを受肉してからずっと崩れたままだ。理由は分かってる。それでも、未だに決心がつかねぇんだ。

『(この襖の向こうに行けば、俺はコトリバコと完全に同化する。肉体だって元に戻るかもしれねぇが…)』

リスクが大きすぎる。もし暴走したら…間違いなく俺は殺されるだろう。

『……怖いな』

怖いさ。暴走するのも、殺されるのも、自分が自分ではなくなっていくのも。
恐怖が、俺の足をこの部屋に縫い止めている。


【開けてみろよ】


襖の向こうから俺の声がする。顔をあげると、声は続けて俺にこう言った。

【俺達だってお前なんだぞ】
『…分かってる。でも…悪い。まだ、怖い』
【…そうか。ま、無理にとは言わないさ】

残念そうな声が聞こえた。その後すぐに、トンと襖を叩くような音がした。

【これだけは覚えとけ。俺達はお前の味方だ。いいな?】
『…分かってる』

そうだろうな。お前は俺の"目"にそう刷り込まれてるんだから。

気配が消えていく。俺は襖から離れて、小さく溜息を付いた。

『…どうすっかな……』

俺の目だっていつ術式が切れるか分からない。でもそう簡単に判断できるもんでもねぇだろ。
…せめて、体だけでも元に戻せれば……。


『……皆に会いたいなぁ…』

拾陸:興味の有無→←拾肆:部屋割り



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.8/10 (142 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
308人がお気に入り
設定タグ:呪術廻戦 , 男主   
作品ジャンル:アニメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:九龍 -くーろん- | 作成日時:2021年1月12日 16時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。