🐶驚くほど静かで ページ32
ダルメシアside
予想外だった。淡々を斧を振って首を刎ねるエースの姿に、僕は釘付けになる。
エースは真面目で優しくて、ジャックほどじゃないけど明るくて楽しいやつだと思ってた。でも、此処じゃその逆だ。
「や、やめてくれハートの1…!私はやっていないんだ!」
腰を抜かして後退るクラブの5に、斧を担いで近寄るエース。震えた声で弁解するクラブの首を、彼は振り上げた斧で刎ね飛ばしてしまった。
『女王様の判決が絶対だ。言い訳は聞かない』
真っ黒なインクが噴水のように吹き出す。その中で彼は何事も無かったかのようにクラブの8へと顔を向けた。
「ひっ…!?」
怯えた様子で声を上げたクラブの8は、裁判所の扉へと駆け出していく。エースは追うでもなく、手に持った斧をクラブの頭上へと投げた。パチンッと彼が指を鳴らすと、斧は一瞬にしてギロチンへと変わる。クラブの8の眼前に落ちたギロチンにクラブの8が驚いて足を止めると、エースは背後からクラブの背中を蹴り倒して両手と首に枷を嵌めた。
「い、嫌だっ!止めてくれ!!」
『命乞いは聞き飽きたよ』
情けなんて無い。グッと紐が引っ張られるとクラブの叫びも虚しく、ギロチンの刃は真っ直ぐ落ちてまた首が飛んだ。
「……」
言葉が出ない。理不尽にも近いこの裁判の中、彼は淡々と仕事をする。いや、寧ろこの裁判の中で自分の鬱憤晴らしをするかのように罪を作り出して、首を刎ね飛ばすのを楽しむような感じすらする。
「ね?笑顔なんて見ないだろ?」
そう言って笑う親友を見てから、またエースに視線を移す。真っ黒なインクを服や顔に飛び散らせた彼は、ハートのトランプ兵に遺体の処理をさせていた。ギロチンはいつの間にか斧に戻っていて、真っ黒に染まった刃もそのままにまた彼は元の場所に戻る。その顔は無表情というより、無機質な感じがした。
「(怖い)」
仏頂面でも無い。まるで物のような表情の彼は見たことがない。ジャックはもう見慣れてるんだろう、楽しそうに彼を見て笑っていた。
「もう少しで休憩時間になるだろうし、その時にでもエースに会いに行こうか」
席を立つジャックに続いて、僕も立ち上がって彼の背中を追う。ふと振り返ってエースを見た時、彼と目が合った。
ちょっと驚いた顔をして、そして黒いインクが付いた顔に笑顔を浮かべて手を振ってくる。いつもの笑顔に、僕はちょっとだけ安心して手を振り返した。
「(良かった…)」
どんな顔になっても、エースはエースだ。
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作者名:九龍 -くーろん- | 作成日時:2022年10月31日 1時