🖤思っていた以上に ページ11
エースside
引き寄せられた茨や木々が彼の動きを止める。苦しげに唸る鴉を前に、僕は羽毛の中から小さな棘が彼に刺さっているのを見つけた。黒くて先が紫色の棘だ。見るからに毒ありって感じの棘に触れると、途端に彼が翼をばたつかせて暴れた。原因はこれか!
『(眠りの棘を受けてもマルフィは全く寝ないし、やっぱり睡眠系の魔法に耐性あるのかっ)』
さっさと取らないと僕が棘で寝そうだな……っ、しかたない…っ
ぐっと羽毛を左手で掴んで振り落とされないようにしてから、僕は棘を掴んだ。
『行くよマルフィ、耐えて…ねっ!』
思いっきり引き抜く。その瞬間、彼は今までで一番激しく暴れた。魔法で引き寄せられて彼を押し込めようとしている茨や木々を翼が打ち砕き、次第に彼を包囲する物が粉々に砕けていく。僕も引き寄せられてるからこそ何とかしがみついてられるけど、ブンブンと体を振られた拍子に太い木の幹に頭を打ってしまった。
眠気で半分沈んでいた意識が一瞬ブツッと途切れた。そのまま受け身を取ることが出来ずに、茨の中に突っ込む。
『う゛…っ』
体中を鋭い棘が貫いて深い睡魔が襲いかかる。朦朧とする視界の中で、ゆっくりと大きな鴉が翼をはばたかせて地面に降りるのが見えた。
そのまま、鴉は僕の方に歩いてくる。ゆっくりと僕に迫ってきた鴉の嘴からはグルルと低い呻き声が漏れていた。そうだよね、思いっきり抜いたら痛いよね…
『…マルフィ』
手を伸ばす。迫る大きな鴉の顔にそっと手が触れると、ピクリと彼が反応した。
鈍い衝撃に体が跳ね上がる。食い込む大きな嘴が、深々と僕の腹を貫いていた。真っ赤なインクが嘴を伝って、滴る雫が地面に吸い込まれる。背中すら突き破ったその一撃によって、流石の僕も激痛で動けなくなってしまった。
『(…そりゃ、怒るよね…)』
止めるためとは言え茨ぶつけたり痛い思いたくさんさせたし…まぁ、仕方ないか。
殺気立つ目元に優しく手を添える。がさついた羽根は凄い魔力を放っていて、手袋越しでも手がチリチリと炙られるように焼けるのが分かった。
『…大丈夫、僕が居るから、落ち着いて』
優しく声をかけて、宥めるように撫でる。不意にこみ上げたインクの塊を吐き出して、次第に力が失せていって、撫でる腕すら上げることができなくなった。
……嗚呼…眠いや……。でもマルフィが側に居るなら…寝ても、良い………よ…………ね………………
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作者名:九龍 -くーろん- | 作成日時:2022年10月31日 1時