片恋のプレリュード【あんスタ・短編集】

甘さの加減/朔間零 ページ9

疲れた時の発散方法、というのは人それぞれだと思う。

私の発散方法というのは、お菓子を作って食べること。

この字面だけならまあまあ女子力が高そうだが、実際はそうじゃない。
大量生産大量消費、自給自足の暴飲暴食。そんな感じだ。体型が不安になる方法なので、多くても週一に限定している。

何故作るところからなのかというと、買うよりも大量に作れるし、カロリーも調整できるし、何より作っている間は普段の雑多な思考を忘れて無心で没頭できる。私はこれを『心頭滅却お菓子作り』と読んでたりする。


今日は予定も無いので、久しぶりにガーデンテラスの厨房を借りてひたすら作っていた。
今日は『ブリティッシュスコーン 〜ジャムと生クリームを添えて〜』。
因みにジャムは天祥院先輩から頂いたものなので、後で紅茶部にでも差し入れしようかな。


久しぶりだから少し甘めにしても良いよね、疲れた時には甘いものだもの。そう思って、生クリームを普段より甘めにしてみた。


「⋯⋯よし」


一区切りついて、今は二回目の焼き終わり待ちだ。待っているこの感じも好きだったりする。
その間にちゃっかり味見という名のつまみ食いもした。背徳感があってこれまたおいしい。


「おや、いい匂いがすると思ったらAの嬢ちゃんではないか」


後ろから声をかけられて、ぐっと喉にスコーンを詰まらせる。どうして朔間先輩がここにいるんだ。

そんな私を知ってか知らずか、並べられた出来たてのスコーンをまじまじと見ている朔間先輩。


「⋯⋯ひとついります？」

「おお、では頂くとするかの」


そう言うと私の手にあった、まだ一口しか食べていない生クリーム付きのスコーンにがぶりと食らいつく。持っていた指ごと食べられて、指に朔間先輩の唇の感触が残った。
そこから全身が痺れ渡るような感覚が私を支配する。


「⋯⋯甘いのう」


唇の横に付いた生クリームをぺろりと舐める赤く濡れた舌に、瞬きの間だけ目を奪われてしまった。

「久しぶりに作ったので甘くしちゃいました」

それを誤魔化すように笑みを見せる。
やっぱり次はもう少し甘さを控えようか。


「次に作る機会があったら、また我輩におくれ」

ごちそうさま、という言葉を置いて厨房を出る彼を見送る。


たまには自分じゃない誰かの為に作るのもありかもしれない。

その時は一緒にお茶しましょうね、先輩。

純白の予兆【1】/天祥院英智→←気が合うね/明星スバル

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す