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仕事終わり、紫耀くんから伝えられた場所まで向かえば
まだ制服姿のままの紫耀くんが
いつもと同じ無表情のまま私のことを待ってくれていた。
私用で名簿の中から紫耀くんの連絡先を見つけ出し
自分のスマホに登録するなんて
本来なら教師として有るまじき行為なんだけど
もし、本当に
彼に一歩踏み込むことができるなら
私にとっても教師として意味のある行動になるんじゃないかなって、ただそうなることを願ってた。
｢･･････えっと、平野くん？
その後ろの方は･･･。｣
｢･･････俺の妹。｣
｢えっ？｣
駅の改札前にある柱に寄りかかっている平野くんに
声をかければ、後ろからひょこっと可愛らしい女の子が現れたから驚いた。
驚いたわけは、もうひとつある。
｢･･････ねえ、その傷･･･。｣
紫耀くんだけじゃなく、
紫耀くんの妹の頬にもまだカサブタにもなっていない新しい傷がひとつ。
これって、もしかして･･･
そう思う私に紫耀くんが言った。
｢先生って独身でしょ？｣
｢え？うん。｣
｢妹のこと暫く匿ってくんない？｣
｢えっ？｣
｢この状況見たら、大体のことは想像つくでしょ。
父子家庭、兄弟揃って傷だらけで、他に頼る大人もいない。
っていうか、正直俺は先生の事も頼りになるとは思ってないけどね。｣
と、相変わらず尖った言葉しかくれないけれど
｢俺はどうにでもなるから、妹だけでも
少しの間面倒見てくんない？
最近、クソ親父が暴走気味なんだよね。｣
本当は、紫耀くんだって
もう精神的にも肉体的にもギリギリだったはずなのに
せめて妹だけでも、安全な場所にって。
光のなかった目に、一瞬温かさが宿った気がして
それを見た私は衝動的に大胆な提案を口走っていた。
｢それなら、平野くんも一緒においでよ。
その方が妹さんも安心だろうし。｣
｢･･････それ、どういう意味か分かって言ってる？｣
分かってた･･････つもりだった。
どんな理由があろうと、担当のクラスの男子生徒を家に泊めるなんて。
そんなの、タブーすぎるって。
だけど、それが今はその場しのぎだとしても
最善だと思ったんだから仕方ないじゃん。
｢今からは教師としてじゃなくて
ひとりの大人としてあなた達2人を守ってみせるから。｣
なんて、くさいセリフに
紫耀くんはまた、鼻で笑うだけだった。
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作者名：ひより
| 作成日時：2023年7月3日 19時
