唇に、さよなら。 (ページ34)

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３４：大きな力。ページ34

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あの日、私は紫耀くんの腕の中で散々泣いていた。

そんな私の頭を、何度も撫でながら
私が落ち着くまでずっと抱き締めていてくれた紫耀くんは
数週間後には、隣の部屋から居なくなってた。

どんな事情があったのかは知らないけど
私に残されたのは

“俺はずっと、Aちゃんのヒーローでいるから。”

そう書かれた一通のメッセージと、

｢････････････うそ、でしょ。｣

陽性と表示されている、妊娠検査薬だった。

まさか、とは思っていた。
生理は予定日より一週間すぎていて
いつもより、気怠い感じがあったり、体の火照りが長く続いたり。

いつもとは違う、生理前の症状を
スマホで検索をかければ、妊娠の可能性があるのが分かって。

そこからは、居てもたってもいられなくて
旦那のいない時間帯に、ひとりでドラックストアに行き
初めて手にした妊娠検査薬。

旦那とは、子供は作らないとふたりで相談して決めていたからまさか、陽性と表示された検査薬と睨めっこする状態になるとは思ってなかった。

もちろん、相手は･･････紫耀くんだろう。

紫耀くんしか、いない。

ちゃんと気をつけていたつもりだったけど、
私、妊娠しちゃったんだ。

結婚生活、7年目にして旦那じゃない人との子を。

どうしようもなく、体が震える。

不安で、怖くて、未来が見えなくて。

紫耀くんの手を取る勇気もなかった私に
旦那との別れを選び、この子を育てていく強さなんてあるのかな。

弱くて脆いだけの私に、一体何が守れるんだろうか。

そう、思うのに･･････。

そっと、お腹に手を伸ばせば
一気に愛おしさに似た感情が溢れてきて。

それと同時に、涙も止まらなかった。

どうしたらいいか、分からない。

そんな感情が大きく占めているのに、
僅かに芽生える愛おしさが

なにも持っていない私に、大きな力を与えてくれる気がした。