唇に、さよなら。 (ページ28)

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２８：一枚の紙切れ。ページ28

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｢なんでそんなに急ぐの？｣

散らかった服をかき集め、シャワーへ直行したあと
ドライヤーで髪を乾かす私の背後に
ようやく起きた紫耀くんが、さっきよりも不機嫌そうな顔で立っている。

｢だって、流石に2日間も家空けるのはちょっと･･･。｣
｢･･･でも、旦那さんは何日か泊まりでの仕事になるんでしょ？｣

私の手からさり気なくドライヤーを奪うと、
指で私の髪を梳かしながら、何食わぬ顔で乾かし始めた。

｢･･････自分で乾かせるよ？｣
｢うん。でも、乾かしてあげたい。｣
｢･･･紫耀くんも早く、シャワー浴びなきゃ。｣
｢延泊しないの？｣
｢･･･しないよ。｣
｢･･･分かった。｣

子供みたいに甘えた声に、一瞬心が揺らいだけど
何とか歯止めを効かせて、唇を尖らせてる紫耀くんをシャワー室へ押し込むことに成功した。

本当は、私だってこのまま紫耀くんと一緒に過ごして
笑いあったり、抱きしめ合ったり、触れ合ったり
そんな心地いい時間を過ごしてたいよ。

だけど、そんな時間を重ねる度に
私は罪悪感を背負って、紫耀くんはリスクを背負うことになる。

旦那の浮気に、私が責める権利はなかったとしても
私の浮気に、旦那が責める権利はいくらだってある。

それは、他の家庭とは違う複雑な理由があるから。

結婚して、２年が経ったある日。

私達はまだ、世間一般的に見て仲のいい夫婦と呼んでもらえるような関係だった。

だけど、そんな関係も
とある一枚の紙によって簡単に崩れてしまった。

旦那の部屋に置いてある、鍵付きのボックス。
気になって、何が入ってるの？と聞いた時には
仕事関連の大事な書類だと教えてくれたから、特に疑いもしなかったし気にもしてなかった。

だけど、旦那の仕事中に部屋の掃除気をかけていたら
鍵が解除された状態のボックスが目に入って。

好奇心で、つい開けてしまえばそこに入っていたのは
仕事関連の書類なんかではなく、
借用書。と書かれた、一枚の紙切れだった。