唇に、さよなら。 (ページ23)

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２３：甘い瞳。ページ23

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私たちが通っていた高校は、あの辺にあるのかな。なんて、
広すぎる街を眺めながら、楽しくお喋りする時間も終わり
冷えきった体で再び、紫耀くんの車に乗り込む。

｢Aちゃん、眠くない？｣
｢うん、大丈夫だよ。｣

暖房をつけてくれた紫耀くんが
ブランケットを広げて、私の膝に掛けてくれた。

｢日付が変わるまで、一緒にいてもいい？｣

不意に投げかけられる、甘い視線には
どんな意味が含まれているんだろう。

一瞬、流れた甘い空気に
私はただ頷くことしか出来なかった。

紫耀くんが、私に向ける視線に、言葉に
寄せてはいけない期待を抱いてしまう私は
もう、きっと紫耀くんの魅力に心を奪われている。

｢せっかくだし、明日一緒に地元巡りしない？｣
｢え？うん、楽しそう。｣

紫耀くんと一緒なら、きっとどこでも楽しいと思う。

けど、それって

｢じゃあ、今日はどっか泊まろうよ。｣

やっぱり、そうなるよね。

｢泊まるって･･･どこに？｣
｢んーー、お誕生日だから、いい所？｣
｢･･･いい所って言われても。
私、一応･･･結婚してるし。｣

私が既婚者だってことを、特に何も気にしてない素振りの紫耀くんにボソッと零した言葉。

｢･･･流石にダメだった？｣

甘く、低く、掠れた声が私の思考を鈍らせる。

信号が、赤になって止まる車。

無言で私を見つめる紫耀くんの瞳は、
どこか切なげで、だけどその瞳の奥には隠しきれない余裕があった。

分かってるんでしょ、ほんとは。

私が、駄目だって言えないこと。

その甘い瞳には、簡単に負けてしまうってことも。