唇に、さよなら。 (ページ21)

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２１：エスコート。ページ21

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｢この辺までくると、色々懐かしいね。｣

県を跨ぎ、地元の道路を走っている途中
窓の外の景色を眺めてる私の心は、楽しく踊っていた。

こうして、車で遠くまで出掛けるなんて
いつぶりだろう。

就職を機に、あっちに引っ越して
だけどすぐ今の旦那と結婚をして寿退社。

玉の輿狙いの就職だなんて、嫌味を飛ばされた私に
向こうで友達と呼べるような人はいなかった。

地元の友人とは、年に数回会う程度だし。
今、友人達とあっても結婚や出産、育児の話で溢れかえって居心地悪いんだもん。

毎日忙しそうで、だけどやりがいがあるって楽しそうに笑う友人と、同じようには笑えない。

そんな、自分が惨めで嫌いだから。

暫く窓の外を眺めながら、ボーッと自分の世界に浸っていると
いつの間にか車を停めていた紫耀くん。

｢降りよっか。｣と、その言葉に慌ててシートベルトを
外そうとするけど、手間取っちゃって。

｢大丈夫？｣

助手席のドアを開けてくれた紫耀くんが
私の体の前を遮って、シートベルトを外してくれた。

ふわっと、香る紫耀くんの匂い。
甘いけど、キツすぎない優しい匂い。

鼻を掠るその匂いに、胸がキュッと締め付けられた。

｢ありがとう。｣

まるでお姫様を扱うように、エスコートしてくれるから
照れ臭くて、さっきからずっと足元ばかり見てる。

紫耀くんが、連れてきてくれた場所が
綺麗な夜景が見れることで、有名な展望台だって気づいたから余計に。

｢ここ、一度来てみたかったんだ。｣

ようやく顔を上げた私に、紫耀くんの目が優しく細められる。

地元のデートスポットで有名な展望台。
地元だから、いつでも行けるっていう考えから
一度も足を運んだことは無かった。

というか、一緒に行くような人と出会えなかった。

そんな、過去の記憶を辿っていると
今ここで紫耀くんと、この場にいることが
やっぱり不思議で、夢を見ているような気分だった。