唇に、さよなら。 (ページ3)

今日:17 hit、昨日:19 hit、合計:170,614 hit

０３：キュン。ページ3

.

｢迷惑かけちゃって、すいません。｣

申し訳なさそうな、恥ずかしそうな
そんな顔で私にペコペコ頭を下げる平野くんは
思っていたより物腰柔らかく、優しい子なんだと思った。

｢気にしなくていいよ、一旦上がって。
今、誰もいないから。｣
｢え、いいんですか？｣
｢うん。旦那は出張で昨日から居ないの。｣

久しぶりに口にした、“旦那”というワードに
一気に気が重くなる。

｢うわ、なんかすげーいい匂いする。｣
｢ふふ、最近料理にハマってて色んなの作ってるんだ。｣

料理をしている最中は、余計なことを考えずに済むから。

だから今日だって初めて作るレシピと睨めっこしてた。

とりあえず、平野くんにソファに座ってもらって
管理会社の番号を伝える。

けど、

｢もしかしたら今電話しても繋がらないかもね･･･。｣
｢マジっすか？どうしよっかな･･･。｣

困った様子で表情を歪める平野くんだけど、
仕事終わりでお腹が空いていたのか、グゥーっと大きな音が鳴って。

｢･･･良かったら、先にご飯食べる？｣
｢えっ？いや、でもさすがに･･･。｣
｢お腹空いてるんでしょ？
2人分あるから一緒に食べようよ。｣

そんな私の提案に、顔色を明るくさせた平野くん。

｢正直、めちゃくちゃ有難いです。
朝から何も食ってなくてすっげー腹減ってたんで。｣
｢え？朝からなにもたべてないの？｣

驚く私に、苦笑いを浮かべる。

｢お腹いっぱいになると、すぐ眠くなっちゃうんで
曲の振り付けを考えてる間は何も食べないようにしてるんですよ。｣
｢へぇ、振り付けもしたりするんだね。｣

大変そう、と零す私に
でも楽しいですよ。と平野くんが笑った。

その笑顔に、

胸がキュンと鳴ったような

そんな、気がした。