唇に、さよなら。 (ページ16)

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１６：冷えた心。ページ16

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｢Aちゃん！｣

週末の夕方過ぎ、
いつものようにスーパーで買い出しを終えたあと
重い荷物を両手にぶら下げる私の後ろから、ハスキーな声が届く。

｢またそんな重そうな荷物、一人で持っちゃってさ〜。｣
｢･･････紫耀くん。｣

オレンジ色の陽に、照らされた紫耀くんが
私の両手にぶら下がった袋を、ひょいと持ち上げる。

｢･･･お仕事終わり？｣
｢うん。今日は、昼レッスンだけで
あとは新しい振り付け考えてた。｣

今日の紫耀くんは、派手めのパーカ姿で。
でも、そんな派手な柄にも負けないくらい
紫耀くんのお顔はキラキラと輝きを放ってる。

｢振り付け考えてたってことは、
今日もお腹ペコペコなんじゃないの？｣
｢すげー、当たってる！！！
もうお腹ペコペコすぎて死にそうなんだけど。｣

一人暮らしで、料理もしない紫耀くんは
普段どんな食生活を送っているんだろう。

コンビニ弁当とか、出前とか？

ちゃんと栄養とれてるのかなって、余計な心配してる。

｢良かったら、またご飯持っていこうか？
今日はね、中華作ろうと思ってるんだ〜。｣
｢え？中華？俺今めっちゃ餃子食べたいんだけど。｣
｢ふふ、餃子の材料買ってあるよ。｣
｢ほんと？でもいいの？俺、まだAちゃんに
何もしてあげれてないのに。｣

もらってばかりで、申し訳ないと眉を下げる姿は
家の中でずっと一人きりだった私の冷えた心を
優しく、温めてくれている。

｢紫耀くんと話してるだけで、元気もらってるよ？｣
｢なにそれ、Aちゃん優しすぎだよ。｣
｢ほんとだって。
一緒にご飯食べてくれたり、美味しいって言ってくれたり
それだけで、私は嬉しいから。｣

伝えたのは、紛れもない本音。

瞳を切なく揺らした紫耀くんに、自分が情けなくなる。